研究課題/領域番号 |
24561047
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
八巻 徹也 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主幹 (10354937)
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キーワード | イオンビーム / 潜在飛跡 / 電子励起効果 / 放射線還元 / 金属ナノ細線 / 電極触媒 / 固体高分子形燃料電池 |
研究概要 |
本研究では、高エネルギーイオンビームの軌跡に沿って形成される円柱状の潜在飛跡を金属イオンの還元場に利用することで金属ナノ細線を作製し、固体高分子形燃料電池に応用可能な電極触媒を開発する。このうち当該年度は、本研究費により設計・製作した専用の照射セルを利用して、雰囲気制御の下で試料の重イオンビーム照射を行い、作製条件の検討を進めた。具体的には、以下のとおりである。 まず、ポリビニルアルコール(PVA)の濃厚水溶液にγ線を照射することで、高分子マトリックスとなる架橋ゲルを作製した。次に、前年度までに見い出した条件に従い、得られたPVA架橋ゲルを硫酸銅(CuSO4)とイソプロピルアルコールを含む水溶液に浸漬し(室温で6時間以上)、Cu2+イオンを吸収させた。最後に、高崎量子応用研究所の照射施設で、520 MeV 40Ar14+均一ビームを大気中に取り出し、取出し窓から5 cmの距離で試料に照射した(試料への入射エネルギーは約330 MeVに減少)。このとき、照射はArガス雰囲気中で行い、フルエンスは1 cm2あたり10の10乗から11乗個に設定した。 照射後の試料はCu2+イオンの青色から赤褐色に変化し、その程度が照射フルエンスが高いほど大きかった。このことから、40Arビームの潜在飛跡内で誘起された還元反応によって、Cu金属が析出していることが初めて確認できた。その後、時間の経過とともにCu金属による着色はなくなり、マトリックスからCu脱離が起こることがX線光電子分光分析により判明した。この結果を受けて、照射後すぐにPVA架橋ゲルの減圧乾燥を試みたところ、析出したCu金属を固定化することができ、詳細な分析、評価に向けた金属ナノ細線の作製手法を最適化するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度における順調な研究進展、すなわち金属ナノ細線の形成条件を見い出すとともに専用の照射セルを設計・製作したおかげで、当該年度は作製条件の最適化に向けた検討を効率的に進めることができた。検討の過程で、還元反応により生成したCu金属がマトリックスから脱離するという想定外の結果を得て、その解決策を講じる必要が生じた。しかしながら、イオンビーム照射直後に試料を減圧乾燥することにより、析出したCu金属を固定化できることがわかり、最終的には条件最適化という目標を達成した。 当該年度は、40Arビームの潜在飛跡内で還元反応が誘起されCu金属が析出していることが初めて確認できた。従って、本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
イオンビーム照射試料の形態、結晶性を走査型、透過型電子顕微鏡観察とX線・電子線回折分析によりそれぞれ評価する。これと同時に、試料の触媒性能を示唆する電気化学特性、特にサイクリックボルタモグラム(電流-電圧曲線)における反応の開始電位と電流、過電圧、さらには水素の吸脱着による電気量から計算できる有効活性面積の評価を行う。 また、金属ナノ細線を炭素(電極)と複合化した後、高分子電解質膜と組み合わせて半電池を製作し、その触媒性能を調べる。上段の検討と合わせて、作製条件へのフィードバックをかけることで、触媒材料として十分に応用可能な金属ナノ細線の作製法を確立する。最後に、ナノ細線作製法の応用性を探索、実証することで研究全体を総括する。
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次年度の研究費の使用計画 |
金属ナノ細線の作製と触媒活性評価のための試薬・ガス、実験器具について、前年度購入分の一部を継続的に使用したため、計画よりも消耗品費が低く抑えられた。また、前年度と同様に、高価である貴金属でなく、比較的安価なCuを実験における模擬金属として使用したことも理由である。 主に、金属ナノ細線の作製と触媒活性評価のための試薬・ガス、ガラス器具などの消耗品費である。特に、貴金属の化合物は高価であるため、当該年度と同様に比較的安価なCuなどを模擬金属として使用する。また、研究成果の外部への発信を積極的に行う予定であり、そのための費用として国内旅費、外国旅費及び学会登録料を計上することになる。
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