本研究の目的である中性子斜入射小角散乱法の実験手法としての確立のためには、1)入射中性子強度を稼ぐための高性能中性子集光ミラーの開発、2)斜入射であることに起因する多重散乱が含まれる複雑な散乱データの解析、の2つが重要である。 1)については平成25年度に中性子スーパーミラーの成膜を行う際に成膜真空槽内の雰囲気をモニターするための質量分析器を導入し、中性子スーパーミラーの性能と成膜条件との関係に関する研究を進めた。既に知られているようにNi成膜時に少量の酸素を導入することによるX線反射率の上昇が確認されたが、同時に層厚制御の精度に悪影響を与えることもわかった。今後これらの課題を含めてさらなる検討及び開発を進めることが重要である。 2)に関しては、仏国ラウエ・ランジュバン研究所の小角散乱装置D33において測定したFe/Si磁気多層膜からの斜入射偏極中性子小角散乱データ解析のために、界面粗さ及び磁気膜においてスピンの揃った領域をモデル化し、多重散乱の効果を考慮するために歪曲波ボルン近似を用いた偏極中性子散乱シミュレーションコードを開発し測定結果との比較を行った。その結果、多層膜の面内磁気構造、即ちスピンの揃う領域のサイズに相当する面内磁気散乱相関長の評価方法としての上記散乱法の有効性を示した。今後、上記コードの適応範囲等に関する更なる検討を進め、投稿論文として発表することを予定している。
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