研究課題/領域番号 |
24570003
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
松本 幸次 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (00119140)
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研究分担者 |
原 弘志 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (00173071)
松岡 聡 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (90509283)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 細菌膜脂質ドメイン / 大腸菌 / 枯草菌 / 酸性リン脂質 / カルジオリピン / ホスファチジルグリセロール / MinD / ClsA |
研究概要 |
本研究計画は以下の2つの方向の課題に分けて研究を実施した。 課題(1)新規糖脂質プローブの開発と細胞表層の脂質分布・脂質ドメイン全体像の解明:糖脂質の局在を検討するためのプローブを開発する課題では、FtsZリングに類似した状態で隔壁膜に局在していると推定される糖脂質合成酵素UgtPと相互作用する枯草菌タンパク質をtwo-hybrid法で解析することにより[課題(2)のii) ]、UgtP酵素はEzrA およびSpoIIEタンパク質と相互作用することを見出した。このように大きな進展が新たにみられたことから、糖脂質の局在を検討するためのプローブ探索は、一時、糖脂質合成酵素UgtP の局在とSpoIIEタンパク質との相互作用の解析からの側面 に重点をシフトすることとした。UgtP欠損細胞では、胞子形成のための不等隔壁形成に重要な働きをもつSpoIIEリング形成の遅延が見出された。 課題(2)脂質合成酵素が細胞分裂隔壁に局在する機構の解明:枯草菌カルジオリピン合成酵素ClsA [課題(i)]と細胞分裂位置制御システムの主構成要素MinD [課題 (iii)]には細胞膜に結合するMTS (membrane-targeting-sequence) と称される両親媒性のαへリックス領域があり、これがタンデムに重複して存在する。MinDではこれが枯草菌以外の多くの細菌のMinDでも同様に2つのMTS領域が存在することを見出した。この2つのMTS配列領域は、分裂位置に豊富に存在するカルジオリピン等の酸性リン脂質と直接相互作用することを、phase partitioning法によるin vitro実験から明らかにした。即ち、2つのMTSは共に、カルジオリピンとホスファチジルグリセロールの含有割合に依存して、リン脂質-TritonX100ミセル相に移行する割合が増加することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、課題(1)新規糖脂質プローブの開発と細胞表層の脂質分布の解明と、課題(2)脂質合成酵素が細胞分裂隔壁に局在する機構の解明の2つのアプローチにより、「細菌膜脂質ドメイン構造の全体像とその細胞機能の解明」を目的とする。 課題(1)においては、前年度までの研究により糖脂質ジグルコシルジアシルグリセロールに、高い特異性を示して結合するペプチド配列がいくつか得られているが、これら配列ペプチド-GFP融合体を用いた解析では、細胞内からは明瞭な局在の存在は判断出来なかった。しかし、FtsZリングに類似したリング状態で隔壁膜に局在していると推定される糖脂質合成酵素UgtPと相互作用する枯草菌タンパク質をtwo-hybrid法で解析することにより、UgtP酵素はEzrA およびSpoIIEタンパク質と相互作用することを見出した。このことを端緒とし、胞子形成のための不等隔壁(FtsZリング)形成に重要な働きをもつSpoIIEリングの形成がUgtP欠損細胞では遅延することを見出していることから、糖脂質もしくは糖脂質合成酵素が胞子形成期の不等分裂隔壁FtsZリングの形成に関与することを示した重要な事実を見出している。 課題(2)においては、MinDのC末端にある、2両つの親媒性のαhelix(MTS)が枯草菌以外の多くの細菌のMinDでも同様に2つ存在することを見出し、更にこの2つのMTS配列領域は、分裂位置に豊富に存在する酸性のリン脂質と直接相互作用することを、phase partitioning法によるin vitro実験で始めて明らかにした。即ち2つのMTSはそれぞれカルジオリピンとホスファチジルグリセロールの含有割合に依存して、リン脂質-TritonX100ミセル相に移行する割合が増加することを示すことができたことから、順調に研究計画は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
課題(1)新規糖脂質プローブの開発と細胞表層の脂質分布を解明する課題は、前年度までの研究により糖脂質ジグルコシルジアシルグリセロールに特異性を示して結合するペプチド配列がいくつか選択されていたが、これら配列のペプチド-GFP融合体を用いた細胞膜内葉側からの解析では、明瞭には局在は判断出来なかった。今後は、FITC等で修飾した合成ペプチドを用いて、phase partitioning法により糖脂質に対する親和性を再度評価し、糖脂質に対する親和性が最も高いものを選抜して、そのうえで細胞膜外葉側から糖脂質の局在を検討する。 課題(2)脂質合成酵素が細胞分裂隔壁に局在する機構の解明においては、項目ii) で、UgtP酵素はEzrA およびSpoIIEタンパク質と相互作用することを見出した。このことを端緒とし、胞子形成のための不等隔壁(FtsZリング)形成に重要な働きをもつSpoIIEリングの形成がUgtP欠損細胞では遅延することを見出している。この発見は未だpreliminary であることから、胞子形成時期の同調化、FtsZ リングとの共染色を含めた詳細な解析を行うことを第一の重点項目とし、SpoIIEリング形成過程においてUgtPが果たす胞子形成細胞における役割を明らかにする。 枯草菌カルジオリピン合成酵素ClsA [項目(i)]とMinD [項目(iii)]には、細胞膜に結合するMTSと称される両親媒性のαへリックス領域がタンデムに重複して存在する。MinDの2つのMTSは其々カルジオリピンとホスファチジルグリセロールの含有割合に依存して、リン脂質-TritonX100ミセル相に移行する割合が増加することを示した。これらMTSのもつ塩基性アミノ酸に注目して配列を改変し、それによる効果を解析し、局在に係わる必須の領域とアミノ酸配列を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
課題(1) i) 前年度までに、糖脂質ジグルコシルジアシルグリセロールに特異性を示して結合するペプチド配列がいくつか選択されたが、これらの特異性をきちんと評価することが出来ていない。FITC等で修飾した合成ペプチドを用いて、phase partitioning法により糖脂質に対する親和性を再度に評価して、糖脂質に対する親和性が最も高いものを選抜し、そのうえで細胞膜外葉側から糖脂質の局在を検討する。 このため、FITC等の標識試薬で修飾したペプチドを委託合成する。糖脂質の精製標品の調製には多くの培養基材と薄層クロマト用基材、脂質抽出用溶媒、対照用脂質を必要とする。 課題(2)項目ii) では、UgtP欠損細胞では胞子形成のための不等隔壁(FtsZリング)形成に重要な働きをもつSpoIIEリング形成が遅延することを見出している。胞子形成の同調化、FtsZ リングとの共染色を含めた詳細な解析を行う。カルジオリピン合成酵素[項目i)]とMinD [項目iii)] には、両親媒性のαへリックス領域MTSがタンデムに重複して存在する。MinDの2つのMTSは其々カルジオリピンとホスファチジルグリセロールの含有割合に依存してリン脂質-TritonX100ミセル相に移行する。MTSのもつ塩基性アミノ酸に注目して配列に置換・欠失等の改変を加え、その効果と酸性のリン脂質の作用を解析する。 前者ii) には、膜染色用蛍光試薬、落射蛍光顕微鏡フィルターユニット、培養基材を必要とする。後者i) iii) には、配列改変用DNAプローブの合成委託、株構築のためのDNA操作試薬、電気泳動用基材、標記脂質を含めた種々の酸性リン脂質と対照用脂質を必要とする。 この他に研究打ち合わせ旅費(京都大)および研究成果論文の掲載費を必要とする。
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