研究課題/領域番号 |
24570003
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
松本 幸次 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (00119140)
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研究分担者 |
原 弘志 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (00173071)
松岡 聡 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (90509283)
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キーワード | 細菌膜脂質ドメイン / 大腸菌 / 枯草菌 / 酸性リン脂質 / カルジオリピン / ホスファチジルグリセロール / MinD / ClsA |
研究概要 |
○本研究計画は以下の2つの方向の課題に分けて研究を実施した。 課題(1)新規糖脂質プローブの開発と細胞表層の脂質分布:糖脂質の局在を検討するためのプローブを選抜する課題では、FtsZリングに類似した状態で隔壁膜に局在していると推定される糖脂質合成酵素UgtPと相互作用する枯草菌タンパク質を大腸菌two-hybrid法で解析することにより、UgtP酵素はEzrA およびSpoIIEタンパク質と相互作用することが見出されている。このように大きな進展が昨年度にみられたことから、糖脂質の局在を検討するためのプローブ探索は、一時、糖脂質合成酵素UgtP の局在とSpoIIEタンパク質との相互作用の解析からの側面に重点をシフトすることとしている。UgtPを欠損する細胞では、胞子形成のための不等隔壁形成に重要な働きをもつSpoIIEリングの形成が遅延することが見出され、本年度は胞子形成の同調化条件を検討し、SpoIIEリング形成の遅延状況を解析した。 課題(2)脂質合成酵素が細胞分裂隔壁に局在する機構の解明:枯草菌カルジオリピン合成酵素ClsA と細胞分裂位置制御システムの主構成要素MinD には細胞膜に結合するMTS (membrane-targeting-sequence) と称される両親媒性のαへリックスがあり、これがタンデムに重複して存在する。MinDではこれが枯草菌以外の多くの細菌のMinDでも同様に2つのMTS領域が存在することを見出した。この2つのMTS配列は、分裂位置に豊富に存在するカルジオリピン等の酸性リン脂質と直接相互作用することを、phase partitioning法によるin vitro実験から明らかにした。即ち、2つのMTSは共に、カルジオリピンとホスファチジルグリセロールの含有割合に依存して、リン脂質-TritonX100ミセル相に移行した。抗体導入により、定量解析を可能とし、カルジオリピンとホスファチジルグリセロールによる相互作用は、ともに用いる分子の含有割合に依存する可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
○本研究は、課題(1)新規糖脂質プローブの開発と細胞表層の脂質分布と、課題(2)脂質合成酵素が細胞分裂隔壁に局在する機構の解明の2つのアプローチにより、「細菌膜脂質ドメイン構造の全体像とその細胞機能の解明」を目的とする。 課題(1)においては、胞子形成のための不等隔壁(FtsZリング)形成に重要な働きをもつSpoIIEリングの形成がUgtP欠損細胞では遅延することを見出していることから、プローブ探索は、一時中断し、糖脂質合成酵素UgtP の局在とSpoIIEタンパク質との相互作用の解析からの側面に重点をシフトすることとしている。本年度は昨年度につづき、系の十分な同調化を計るため、胞子形成の同調条件を検討し、SpoIIEリング形成の遅延状況を解析した。 課題(2)においては、MinDのC末端にある、2両つの親媒性のαhelix(MTS)が枯草菌以外の多くの細菌のMinDでも同様に2つ存在することを見出し、この2つのMTS配列は、分裂位置に豊富に存在する酸性のリン脂質と直接相互作用することを、phase partitioning法によるin vitro実験で明らかにした。抗体の導入により、定量的解析を可能とし、カルジオリピンとホスファチジルグリセロールによるMinDとの直接相互作用は、ともに用いるリン脂質分子の含有割合に依存する可能性を示唆することができた。また、同様に酸性リン脂質に親和性があると考えられる大腸菌ホスファチジルセリン合成酵素Pssについても、phase partitioning実験の有効性を示した。 研究代表者松本の定年退職(25年3月)後の研究室、実験室の整理に時間がとられたが、研究計画はほぼ順調に進展しているものと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
○課題(1)新規糖脂質プローブの開発と細胞表層の脂質分布・脂質ドメインの全体像の解明 糖脂質ジグルコシルジアシルグリセロールに特異性を示して結合するペプチド配列がいくつか選択されていたが、これら配列のペプチド-GFP融合体を用いた細胞膜内葉側からの解析では、明瞭には局在は判断出来なかった。今後は、FITC等で修飾した合成ペプチドを用いて、phase partitioning法等により糖脂質に対する親和性を評価し直し、糖脂質に対する親和性が高いものを選抜し局在を検討する。なお、糖脂質合成に関与するUgtP酵素については、下記事項の展開に応じて、重点を移すことを考慮に加える。 課題(2)脂質合成酵素が細胞分裂隔壁に局在する機構の解明 UgtP酵素はEzrA およびSpoIIEタンパク質と相互作用する。このことを端緒とし、胞子形成のための不等隔壁(FtsZリング)形成に重要な働きをもつSpoIIEリングの形成がUgtP欠損細胞では遅延することを見出している。胞子形成時期を同調化したのち、FtsZ リングとの共染色を含めた詳細な解析を行うことを第一の重点項目とし、SpoIIEリング形成過程において糖脂質とUgtPタンパク質が果たす役割を明らかにする。枯草菌MinD には、ともに細胞膜に結合する両親媒性のαへリックス領域(MTS)がタンデムに存在する。MinDのMTSは其々カルジオリピンとホスファチジルグリセロール分子の含有割合に依存して、リン脂質-TritonX100ミセル相に移行する割合が増加することを示した。これらMTSの領域の範囲を明確にし、アミノ酸配列の改変による効果を解析し、局在に係わる必須の領域とアミノ酸配列を明らかにすることから、酸性リン脂質との相互作用の本質を明らかにする。同様の特性をもつカルジオリピン合成酵素ClsA との丁寧な比較解析をすすめ、隔壁への局在をもたらす構造上の特性を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
糖脂質を合成する酵素UgtPを欠損する細胞では、胞子形成のための不等隔壁(FtsZリング)形成に重要な働きをもつSpoIIEリングの形成が遅延することを見出している。この発見は重要であるが、未だpreliminary であることから、胞子形成時期の同調実験を含め確認解析を行うことを第一の重点項目としてきた。糖脂質ジグルコシルジアシルグリセロールに特異性を示して結合するペプチドの解析のための、蛍光修飾ペプチドの合成委託等は、第一の重点項目の結果を確認してから検討することとした。このため次年度使用金額が生じた。 課題(1)上記項目を検討したうえで標識試薬修飾したペプチドを委託合成する。糖脂質の精製標品の調製には多くの培養と薄層クロマト用基材を必要とする。 課題(2)では、UgtP欠損細胞において胞子形成時に遅延SpoIIEリング形成が遅延する現象の解析については、抗体たんぱく質の委託合成、膜染色用蛍光試薬、落射蛍光顕微鏡フィルターユニット、培養基材を必要とする。ClsAとMinDの両親媒性のαへリックス領域の解析についてはアミノ配列改変用DNAプローブの合成委託、改変株構築のためのDNA操作試薬、電気泳動用基材、種々の酸性リン脂質と対照脂質の購入を要する。この他に研究打ち合わせ旅費(京都大)および研究成果論文の掲載費を必要とする。
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