研究課題/領域番号 |
24570007
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
青木 摂之 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (30283469)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生物時計 |
研究概要 |
2012年度においては次の研究成果が得られた。 1)各種レポーター株の作出 ヒメツリガネゴケのCCA1a、PRR1、PRR3のプロモーターを用い、またルシフェラーゼN末端との連結部分を工夫し、各種の新しいルシフェラーゼレポーターコンストラクトを作製し、それらをコケ細胞に導入し、形質転換体を得つつある。従来から用いているCCA1bプロモーターによるレポーター株は発光リズムの振幅と継続性が若干弱かったが、新しいレポーター株は、振幅と継続性がより高いリズムを示し、より綿密な解析に用いることができると期待できる。 2)時計遺伝子変異株を用いた発現解析 CCA1a/CCA1b二重変異株を用いて、4つのPRRコケホモログの発現を調べた結果、光誘導を示すPRR1とPRR3は変異株で明期前半の発現が高くなる一方で、PRR2とPRR4はほとんど発現の変化を示さないことがわかった。これは、コケの段階で、PRR遺伝子族のメンバー間で時計の制御において機能分化が生じていることを示しており、植物の時計機構の進化を理解する上で重要な知見である。またELF3、ELF4、PCL1など、他の時計遺伝子ホモログについても遺伝子破壊のためのコンストラクトを多数構築し、それらを用いた形質転換を行いつつある。 3)発光リズムのトランジェントアッセイ コケプロトプラストにPEG法により各種レポーターコンストラクトを導入して発光リズムの測定を試みた。その結果、明暗サイクル条件下で個体からのリズムと同様の発光リズムが観察でき、さらに連続暗条件でも、低振幅ながらも同様の発光リズムが観察できることが確認された。現在、測定条件を詳細に吟味している。今後、各種エフェクターを共導入することで、時計遺伝子間の制御関係を簡便にアッセイすることが可能となり、時計遺伝子ネットワークの解明に大きく役立つと期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
応募計画で24年度中に行う予定であった「コケ時計遺伝子ネットワークの同定」については、【研究実績の概要】に記したように、一定の成果を得たと考えている。特に時計遺伝子のコケホモログについては、ドメイン間の配列比較を詳細に行うことによってほぼ完全なリストアップを行い、さらに遺伝子破壊のためのコンストラクト構築は9割程度終えた。形質転換については、まだ手を付けていないものもあるとはいえ、主要な時計遺伝子回路の一つと考えられる2つのCCA1ホモログと4つのPRRホモログの間の制御関係についてはほぼ解明出来たと考えている。さらにELF3、ELF4、PCL1といった、未解析であった主要なものについても形質転換体コロニーの候補を相当数得つつある。 また時計遺伝子ネットワークの解析において非常に大きい役割を担うと考えられる手法として、コケプロトプラストを用いた発光リズムのトランジェントアッセイ法の開発を進めることができた。今後この方法をさらに綿密に整備することにより、安定な形質転換体の作出が困難な遺伝子などについても、非常に簡便に遺伝子の制御関係を突き止めることが可能になると期待されるので、全体の計画の進展上大きく評価できる。 さらに、24年度の解析のもうひとつの大きな柱であった「コケ時計特有のリン酸転移システムの解析」については、遺伝子破壊用のコンストラクト構築を完了し、形質転換を進め、一部の一重形質転換体の分離を行った。 こうした状況であるので、全体としては研究計画書の内容に比して8割から9割の達成度と判断し、【現在までの達成度】の区分3)を選んだ。
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今後の研究の推進方策 |
まず、2012年度に始めた各種時計遺伝子ホモログの遺伝子破壊株の作出を完了させる。そして、研究計画書に記した通り、25年度のうちに、CCA1ホモログ、ELF3/ELF4/PCL1各ホモログ、PRRホモログの間の三竦み回路がヒメツリガネゴケでも保存されているかどうかについて最初の手掛かりを得たい。25年度前半には24年度に作出を急いだ改善型のレポーター株が使用可能となると期待できるので、それらを用いた体系的な遺伝子破壊も進める。さらにプロトプラストを用いた発光リズムのトランジェントアッセイが確立すれば、コケの時計遺伝子ネットワークの解析のうえで非常に大きな効率化が望めるので、この点にも力を入れたい。 コケ時計特有のリン酸転移システムの解析については、計画全体の中でも要となる部分であるので、2年目には大いに力を入れたい。コケPRRにリン酸転移を行うヒスチジンキナーゼの候補をコードするものとして考えている2遺伝子の二重破壊株の作出を完了し、周期や位相といったリズムの基本特性に加えて、高次な生理作用である光リセッティングにおける異常の有無を綿密に調べる。他に二次的候補として考えているヒスチジンキナーゼ、ホスホトランスミッターの配列の遺伝子破壊も進めたい。 さらに、25年度から行う予定である時計遺伝子の発現等の動態解析も計画通り進める。25年度は、ウェスタン解析、免疫沈降法等の準備として、タグ配列を組み込んだ各種コンストラクトの作製を行い、作製が完了したものから形質転換に用いる。25年度から26年度にかけて形質転換体の候補を順次分離していき、分離したものから発現動態の解析に用いる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由について:24年度において、時計遺伝子ホモログの発現解析には主に半定量RT-PCR解析とノーザンブロッティング解析を用い、ルシフェラーゼレポーター株からの発光測定は計画していたほどは行わなかった。このため、比較的高価な発光基質であるルシフェリンの消費が予定より少なく、その分の費用が浮いたかたちとなった。また、以前配分された学内経費(名古屋大学学術振興基金)の使用延長が認められたため、これに相当する分の科研費を節約できたことも次年度使用額が生じた理由の一つとして挙げられる。 翌年度以降に請求する研究費と合わせた使用計画について:25年度には各種のルシフェラーゼレポーター株が完成する予定であるので、ルシフェリン使用量も前年度に比べて大きく増えると考えられる。また、25、26年度には、リン酸転移システムの解析にも力を入れる計画であるので、コンストラクションや形質転換体のゲノム解析に用いる酵素・キット類も多く購入する可能性が高い。次年度使用額は、25年度以降に請求する研究費と合わせて、これらの出費に充当したい。
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