研究課題/領域番号 |
24570007
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
青木 摂之 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (30283469)
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キーワード | 生物時計(概日時計) / 生物リズム(概日リズム) / ヒメツリガネゴケ / 基部植物 / 時計遺伝子 / レポーターアッセイ / トランジェントアッセイ |
研究概要 |
2013年度においては次の研究成果が得られた。 1.コケ時計遺伝子完全長cDNAの分離 いままで主に解析して来た2つのCCA1ホモログ遺伝子と4つのPRRホモログ遺伝子に加えて、高等植物の主要な時計遺伝子とされるPCL1(LUX)、ELF3、ELF4のコケホモログの完全長cDNAの分離を進めた。特にPCL1の4つのコケホモログについては、oligo cappingを伴うRACE法により、完全長cDNAの大部分を取得した。 2.コケ時計遺伝子ホモログの制御関係の解析 コケゲノムデータベース(http://www.cosmoss.org)を用い、1で得られた転写開始点情報を繰り込みつつ、コケ時計遺伝子ホモログのゲノム上流配列を検索し、CBS、evening element、LBSといった時計関係のcis調節配列の存在を調べ、高等植物の時計機構モデルのひとつ「三すくみモデル」と矛盾しない制御関係が推測出来る事を明らかにした。さらに、トランジェントアッセイによりコケにもこのモデルを適用出来るかどうかを確認するため、各遺伝子のレポータープラスミドとエフェクタープラスミドの構築を進めた。 3.パーティクルボンバードメント法(PB法)によるリズムのトランジェントアッセイ法の確立 PB法は簡便で、かつ生育途中のプロトネマを使えるため、インタクトな時計のふるまいを調べられると期待出来る。そこで、CCA1bなどの高振幅な発現リズムを示す遺伝子のレポーターコンストラクトを、PB法によりプロトネマに導入し、簡便で正確なリズムのアッセイ方の確立を試みた。その結果、コケのPRR1の発現リズムをはっきりと測定するのに成功した。 これらの成果は、時計遺伝子の機能解析のための重要な情報源・ツールとして活用出来き、特に2と3は、コケと高等植物の時計遺伝子ネットワークの比較・解析のうえで非常に役に立つと期待出来る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
応募計画で中心的な内容としている「コケ時計遺伝子ネットワークの同定」については、かなり具体的な成果が得られたと考えている。コケの時計遺伝子ホモログについては、ゲノムベースの情報だけでなく、完全長cDNAについてもその同定・分離を大幅に進め、高等植物の時計遺伝子群との重複部分については、その実態がかなり明らかになって来た。特に、高等植物において単独変異が大きなリズム異常をもたらし、時計機構の中心的な部品として考えられるPCL1(LUX)の正確なパラログ組成と各遺伝子のプロモーター領域とが明らかになった事は今後の解析の上で大きな意味を持つと考えられる。 また25年度に新たにPB法に基づくリズムのトランジェントアッセイの確立に着手し、一定の成果を得た事は重要である。「研究実績の概要」に記したように、PB法は、その手技が簡便であるため、今後多くの遺伝子間の制御を解析する上で、非常に効率的な技法として活用出来るとおおいに期待出来る。また、DNA導入の為にプロトプラストにする必要がないため、よりインタクトな状態で生物時計を解析出来る点も大きな長所である。ただし、測定される発光リズムの発光レベルが現状では若干低いため、今後エフェクタープラスミドとの共導入の際の条件をしっかりと検討して行く必要がある点に注意すべきであろう。 一方で「コケの時計特有のリン酸転移システムの解析」については、形質転換体の作製に手間取るなどし、大きな進展が見られなかったので、(区分)を「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
まず、2013年度に大きく進展させる事ができた完全長cDNAの網羅的分離を完了させる。その成果を、安定な形質転換体を用いた解析、あるいはトランジェントアッセイにおける過剰発現やプロモーター解析に役立てる。またトランジェントアッセイによる時計遺伝子ホモログ間の制御関係の解析については、当初の計画で大きな位置を占めていたPEG法に代わり、PB法によるアッセイを効果的に行える可能性が出て来たので、今後、PB法の実験条件を丁寧に検討した上で、ある程度複雑であると考えられるコケの時計遺伝子群のネットワーク構造を解明するために多いに活用したいと考えている。従って、ゲノムへの遺伝子移入を伴う安定な形質転換に関しては、(多重変異の導入も含めて)時計遺伝子ホモログの全ての組み合わせについて遺伝子破壊を施したレポーター株を作るというよりは、トランジェントアッセイで得られた重要なデータを確認・検証する、あるいは、何らかの理由でトランジェントアッセイでは結果を得ることの出来なかった部分を補足する、という目的で、当初の計画よりも限的的な形で行った方が研究計画全体の推進の上では効果的であると考えられる。「コケの時計特有のリン酸転移システムの解析」については、現在難航しているが、ターゲットである2つのヒスチジンキナーゼ遺伝子の二重遺伝子破壊株の作出を完了させ、それらを用いてリズムの周期、位相、波形、そして位相リセッティング能について、野生型との比較を詳細に行う。これらの解析の成果について、連携研究者らとの詳細な検討・理論的検証を2014年度の半ばから始めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度において、当初計画していた形質転換体のいくつかについて作出が完了しなかった。特に、詳細なアッセイを予定していたヒスチジンキナーゼ遺伝子の二重破壊株を作出出来なかった。このため、比較的高価な発光基質ルシフェリンの消費が予定していたよりもかなり少なく、その分の費用が浮いたかたちとなった。 2014年度には、特にヒスチジンキナーゼ遺伝子の破壊株の作出に力を入れ、計画遂行の上で重要ないくつかの形質転換体を用いた解析を実行する予定である。またPB法によるトランジェントアッセイを多数行う予定である。従って、ルシフェリン使用量が予定よりも多くなると考えられるので、そのために「次年度使用額」を用いる予定である。
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