研究課題
基盤研究(C)
全ての生物において遺伝情報を担う染色体ゲノムDNAは、自然環境下における様々なストレスにより常に損傷を受けている。DNA損傷によるDNA複製の阻害は、細胞死や突然変異頻度の上昇などのゲノム不安定化を引き起こし、ヒトにおいてはガンや老化の原因となっている。一方で、生物はこのような慢性的に起こるDNA損傷ストレスに対して耐性能力を獲得することで様々な環境に適応している。損傷ストレス耐性経路の一つとして、DNA損傷部位での複製阻害を回避する仕組み(DNA損傷トレランス機構)が存在する。その中心的な役割を果たす因子として出芽酵母ではユビキチンライゲースであるRad18やRad5が知られている。また、DNA損傷に依存した複製阻害に伴って引き起こされるクロマチンの構造変化は、DNA損傷トレランス機構の制御に重要であると予想される。そこで、クロマチン構造変化の中心的役割をもつヒストンコード遺伝子の変異ライブラリーを用いて、DNA損傷トレランス機構の制御に機能するヒストン変異体の同定を行った。具体的には、486種類のヒストン変異体についてRAD18遺伝子を欠失させた二重変異株をそれぞれ作製し、様々なDNA損傷に対する感受性を測定した。その結果、それぞれの単独変異株よりも高感受性を示すものや耐性を示すものが単離された。出芽酵母Mgs1は原核生物から高等真核生物まで高度に保存されている因子である。Mgs1はRad18と合成致死を示し、DNA損傷トレランス機構に関与することが示唆されているものの、その具体的な分子機能はよくわかっていない。そこで、Mgs1の部分欠失変異体を複数作製し、細胞内での活性を測定した。その結果、Mgs1機能に必要な領域が同定できた。また、Mgs1とRad18の高温感受性二重変異株からマルチコピーサプレッサーの単離を行い、これまでに複数の候補因子が同定されている。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、DNA損傷トレランス機構の制御メカニズムの解明である。研究初年度において、クロマチン構造変化との関連性およびMgs1の機能解析・サプレッサー解析という2つのアプローチから研究を進めており、新たな制御メカニズムの発見・解明に繋がる重要な結果が得られている。このため、今後の詳細な解析により更なる発展が期待される。一方で、初年度実施計画に挙げたRad5の機能解析およびDNA損傷トレランス機構に依存した染色体ゲノム領域の解析については、一定の成果が挙げられていない。そのため、総合すると当初の計画以上に進展しているとは評価し難いと思われる。
研究初年度において得られた解析結果をもとに研究を推進する。研究内容については以下に記す。1、DNA損傷トレランス機構の制御への関与が予想されるヒストン変異体の解析を行う。具体的には、DNA損傷依存的なヒストン修飾との関連性、DNA損傷トレランスに関与する因子やタンパク質修飾との関連性から解析を行う。2、Mgs1の機能に重要と考えられるアミノ酸領域の変異体について解析を行う。具体的には、変異タンパク質の発現系の構築および精製を行い、生化学的活性を指標に解析する。また、単離したマルチコピーサプレッサーについては、原因因子の同定を進め、同定した因子については機能解析を行う。3、Rad5の解析およびDNA損傷トレランス機構に依存した染色体ゲノム領域の解析については、解析条件の再検討を行う。
該当なし
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Environmental Microbiology
巻: 未定 ページ: 未定
10.1111/1462-2920.12147