東北地方太平洋沖地震の直前の9年間に群集動態が継続調査された三陸沿岸の5つの海岸において、地震後に同地点で再調査を行い、岩礁潮間帯の中潮帯の底生生物の優占種を対象に、地震後の帯状分布の変化を検討した。その結果、帯状分布の地震後の変化の仕方は種によって実にさまざまであることがわかった。固着動物では、イワフジツボは地震1年後に帯状分布が上方に拡大することで地震以前よりアバンダンスが増加したが、帯状分布の位置もアバンダンスも2013年に完全地震以前の状態に戻った。これに対し、チシマフジツボは、地震直後に激増したがその後は減少し、2013年には完全にプロットから消滅したが、その後増加した。二枚貝ではマガキは地震直後にはあまり変化せず、2013年から激増したのに対し、イガイ類は、地震後,2014年まで一貫して減り続けた。 多年生の海藻マツモとベニマダラはともに地震直後には目立った増減を示さなかったものの、前者は2011年には帯状分布の垂直位置が回復し、2012年には激増しその後も地震前より多い状態にあるが、後者は、地震後は海岸の沈降に伴い帯状分布が深部に移動した以降、アバンダンスが減少し、いまだに回復していない。移動性底生動物(藻食性腹足類)は、いずれも、帯状分布の垂直位置は、地震後4カ月で地震前の状態にもどったものの、アバンダンスは種によって変化した。イシダタミとクサイロアオガイは、2012年に減少した後、低迷しているのに対し、カサガイ類のコガモガイは、地震直後にやや減少したが1年で回復した。一方、同属のコモレビコガモガイは、地震前後で目立った変化を見せなかった。以上の結果は地震後の岩礁潮間帯の生物群集は地震後3年の段階では、元の状態には完全には回復していないことを示している。
|