研究課題/領域番号 |
24570016
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
八尾 泉 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 農学研究院研究員 (70374204)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | wolbachia / buchnera / aphid / ant / mutualism |
研究概要 |
アリ共生型カシワホシブチアブラムシがタンニン分解細菌を持つことによって,植物の二次代謝物質に対抗する戦略を持っているのではないかという仮説を検証した。2012年6~7月初旬のカシワホシブチアブラムシを採集し,1.5mlチューブ3本を用いて,それぞれ1匹,6匹,30匹を投入し,すりつぶした。遠心後に上澄み液をタンニン培地に塗布した。48時間後にコロニーができるかどうかを確かめたが,いずれの処理区においてもコロニーは生育せず,アブラムシがタンニン分解細菌を保持している可能性は低いと考えられた。 一方,16S-rRNAの汎用プライマーを用いてアブラムシ体内の微生物を網羅的に増幅し,変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法によって,微生物を分離した。その結果,アブラムシの一次共生細菌として知られているブフネラと一部の昆虫で発見されているボルバキアが検出された。これらの他に,二次共生細菌と称される細菌も検出された。ブフネラとボルバキアの個体群動態が季節的に変化するかどうかを調べるために,それぞれのプライマーとプローブを作成し,Taqman probe方式で定量PCRを行った。その結果,ブフネラは寄主植物の質が良い6月にピークを示し,その後は大きな変動は見られなかった。一方ボルバキアは夏に向かって増加を示した後に減少し,再び増加するM字型の動態を示した。 従来の研究で扱われてきたブフネラやボルバキアは,飼育昆虫や一時的な採集した昆虫からの検出であり,季節に伴う寄主植物の質の変化を考慮した採集は行われてこなかった。本研究はブフネラとボルバキアの季節的変化を初めて定量化したものと言える。特にボルバキアは,寄主植物の質が最も低くなる盛夏に最大ピークを示しており,とても興味深い現象を示した。この現象は寄主植物の質の低下に抗する増加を示しており,植物の二次代謝物質と関連していることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予想していた,アブラムシ体内のタンニン分解細菌は検出されていないが,従来から知られているブフネラとボルバキアの季節的変化を定量化を行うことができたことは有意義である。特にボルバキアが寄主植物の質の低下と反比例するように増加していることは,植物の二次代謝物質に対抗していることを示唆する。当初予想していた仮説と合致する現象であり,方向性は間違っていないと考えられる。ボルバキアそのものを検出できたことに加え,その季節的定量化は当該分野において初の成果であり,おおむね順調に進展していると評価する。 さらにアリ共生型アブラムシの体色とブフネラの一系統において相関関係が見られ,ブフネラがアリ共生型アブラムシの進化に大きく関与していることが示唆された。これは当初予想していなかった結果であり,重要な発見である。
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今後の研究の推進方策 |
まず,ブフネラとボルバキアの季節による定量化と,ブフネラとアリ共生型アブラムシの体色の相関についての論文を執筆する。 次にTuberculatus属アブラムシ23種を対象に,ブフネラとボルバキアの存在の有無を調べ,アリ共生との相関を検出する。また非共生型アブラムシのT. paikiは比較的サンプリングしやすいので,この種を使ってブフネラとボルバキアの季節動態をカシワホシブチアブラムシと比較する。 またカシワホシブチアブラムシとエゾアカヤマアリの共生関係において,共生アリ側の体内微生物をスクリーニングする。すでに数種の体内微生物を検出しており,これらをシーケンスにて同定する。この計画も季節を考慮したサンプリングで実行する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,エゾアカヤマアリ内の共生微生物の定量化を季節変化に沿って調査し,アリーアブラムシ共生関係における微生物動態を包括的に捉える。このために定量PCRにかかる費用として,消耗品約70000円に加えて,機器賃料として約20,000円を見込んでいる。 Tuberculatus属アブラムシ23種を対象にした共生微生物のスクリーニングは,ポリアクリルアミドゲル電気泳動及び変性剤濃度勾配ゲル電気泳動を用いて行う。ここでは約30,000円を計上する。 また広島市で行われる生態学会に参加するために約80,000円を計上する。
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