研究課題/領域番号 |
24570018
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝男 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (10124588)
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キーワード | 底生動物群集 / 種類組成 / 回復過程 / 優占種 / 干潟生態系 / 津波撹乱 |
研究概要 |
本年度は、24年度に引き続き、松川浦内の11地点において底生動物の定量採集を2013年9月(震災後2.5年)に、船を利用し、研究協力者の補助を受けて行った。これらの地点では、本研究開始以前の2011年9月と2012年3月にも同様の調査を行なっていることから、3.11震災に伴う大津波によって底生動物群集の種類組成や密度がどのような影響を受けたのかを明らかにし、その後の底生動物群集の回復過程を比較検討した。 震災による影響は、大規模撹乱1地点、小撹乱3地点、地盤沈下を含めた中撹乱5地点、中撹乱だが泥分が流去し砂が堆積したことで環境改善が行われ干潟が形成されるようになった新規干潟2地点に類型された。また、大規模撹乱を受けた干潟のモニタリングのために堤防決壊箇所の近くに新たに2地点を設けるとともに、船を利用して干潟の出現状況の一部を調べた。 底生動物は、震災から2年を過ぎると巻貝、二枚貝も出現するようになったが、一部を除いて少数が確認できた程度であり、主体は多毛類であった。11地点全体での出現種数は、2004年が64種、2012年3月が63種、2012年9月が61種、2013年3月が56種、2013年9月が59種であり、震災前後で同程度となっていた。しかし、震災後の種類組成を見ると、多毛類は早い回復を見せているが、巻貝類、二枚貝類、甲殻類は、一部を除いていまだ回復にはほど遠い状況であった。また、多毛類でも優占種は年ごとに大きく変化していた。 このように、同じ松川浦内に位置する干潟でも、各地点の海水交換や泥の堆積状況、あるいは人為改変の程度によって、その後の底生動物の変化は様々である。こうした状況を比較検討することによって、多様な底生動物が棲みこみ、干潟生態系がより健全な姿になるために必要な人為の加え方を探っていけるものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
震災前に調査を行った11地点について、24年度に2回、25年度に1回の現地調査を実施した。これにより、本研究以前の調査結果(2011年9月、2012年3月)も加えて、底生動物群集の動向を詳細に追跡できた。また、大規模撹乱を受けた干潟2地点を加えたことにより、震災による撹乱強度の異なる干潟を複数地点ずつモニタリングできており、底生動物群集の種多様性の回復や維持にどのような因子が影響しているのかの検討が可能になるなど、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
震災後3年を過ぎた時点での底質や底生動物群集の調査を、これまでと同一地点で実施する。これにより、これまでの調査結果と合わせて、震災後の底生動物群集の回復が、どのような因子によって制限を受けているのかを検討する。また、底生動物群集の優占種の置き換わりが見られる現状が、どのように推移するのかを明らかにする。さらに、これまでのコアサンプラーによる定量調査では、個体数密度の低い大型の巻貝類、二枚貝類、甲殻類等の回復状況の把握が不十分であることから、重点的調査地点を設け、あるいは広域におよぶ定性調査も含めて、底生動物群集全体の回復状況の把握に努める。この場合、干潟周辺のヨシ原やアマモ場の回復状況についても留意する。これらを総合して大津波で撹乱を受けた干潟の底生動物群集の種多様性の回復や維持に必要充分な条件を抽出することを試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、当初計画していた現地調査の内の1回分(2014年3月予定)を、次年度の早い時期(2014年4月)に行なうことに変更したために生じたものである。この調査時期の変更は、2014年3月が例年に比べ低温であったため、同時期においてより効果的な調査が可能である2014年4月に実施を延期したことによる。 延期した調査に必要な経費として平成26年度請求額とあわせて使用する予定である。
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