2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う大津波によって、仙台湾沿岸域に立地する干潟は大きく撹乱された。撹乱程度は地域毎に様々であることから、回復に関わる主導因子の抽出には、ひとつの地域内に存在する複数の干潟において底生動物群集の回復過程をモニタリングする必要があった。 そこで、仙台湾で最大規模の干潟を有する松川浦(福島県相馬市)において、撹乱強度の異なる干潟13地点を選定し、底質と底生動物群集の調査を継続して行った(2012年9月、2013年3月、9月、2014年4月)。これらの地点のうち11地点では震災前の2004年6月と震災直後の2011年9月(4地点のみ)、2012年3月にも別途調査を行っていることから、底生動物群集の被災程度やその後の回復状況について比較・検討した。 全体としての種数は震災直後に大きく減少したが、1年後にはほぼ回復した。しかし、貝類の減少を含めて種組成には変化が見られ、優占種が交代するなど、いまだ回復途上にあることが判明した。個体数密度で見ても貝類や甲殻類は減少したままであった。また、調査地点ごとの変遷を比較すると、底生動物の回復は津波の撹乱強度とは必ずしも関連していないことが示された。海水交換が良く、底質環境が良好に保たれているところでは、津波やその後の人為撹乱(浚渫や盛り土など)があっても底生動物の回復は早いようであった。このことから、生息場所の環境を整えることが底生動物の回復にとって重要であると考えられた。さらに、2014年8月に松川浦の周囲で大型底生動物の生息状況を調べ、2012年に実施された別途調査と比較したところ、護岸堤防の建設が進んだところでは、近隣の干潟に生息する種も含めて生息種数が減じていた。 これらのことから、津波という撹乱に対する底生動物群集の復活には、生息場所の回復・保全が必須であることが示された。
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