研究概要 |
蝶類の精子には、核をもち卵と授精できる有核精子と、核がなく授精できない無核精子が存在する。一方、雌の生殖器官は、交尾嚢と受精嚢があり、精子が含まれる精包は交尾嚢へ注入される。したがって、精子は、交尾後、受精嚢へ移動せねば卵に授精できない。これまでに、無核精子の存在意義として有核精子の移動を助けるという説が提唱されてきた。 平成24年度は、精子の活性と受精嚢に到達する精子数との関係を明らかにしようと試みた。実験には、主として、ナミアゲハとクロアゲハを用いた。2日齢の雄を未交尾雌とハンドペアリング法によって交尾させ、交尾後の雌体内における精子移動数を調べた。また、交尾後24時間経過した雌の受精嚢内の有核精子の回転運動を測定した。 自由有核精子に換算すると、1回の交尾で、クロアゲハは約35,000本、ナミアゲハは約16,000本注入されていた。無核精子の注入数はクロアゲハで約160,000本、ナミアゲハで約270,000本であった。しかし、受精嚢に達した精子数は両種で違いは認められず、有核精子は約3,000本、無核精子は約5,000本ほどである。精包に残存していた精子数にも有意な差は無く、移動中の精子消失数は、有核精子がクロアゲハで約30,000本、ナミアゲハで約12,000本、無核精子は、クロアゲハで約150,000本、ナミアゲハで約260,000本である。 有核精子の回転活性速度は、クロアゲハで0.34㎜/s、ナミアゲハで0.28㎜/sとなり、クロアゲハのほうが活性は高い傾向を認めた。有核精子長はクロアゲハで1,040μm、ナミアゲハで950μm、無核精子は両種とも400μmほどで差は認められなかった。 これらの結果から、有核精子の活性が高ければ無核精子の必要性が低くなるという仮説は満たせそうであった。今後は、同様に無核精子の活性も測定し比較検討する予定である。
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