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2012 年度 実施状況報告書

アゲハ類における精子間競争-無核精子最後の戦い-

研究課題

研究課題/領域番号 24570019
研究種目

基盤研究(C)

研究機関筑波大学

研究代表者

渡邉 守  筑波大学, 生命環境系, 教授 (80167171)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2015-03-31
キーワード無核精子 / 有核精子 / 回転活性 / 精包 / 交尾嚢 / 受精嚢 / 消失数 / 有核精子束
研究概要

蝶類の精子には、核をもち卵と授精できる有核精子と、核がなく授精できない無核精子が存在する。一方、雌の生殖器官は、交尾嚢と受精嚢があり、精子が含まれる精包は交尾嚢へ注入される。したがって、精子は、交尾後、受精嚢へ移動せねば卵に授精できない。これまでに、無核精子の存在意義として有核精子の移動を助けるという説が提唱されてきた。
平成24年度は、精子の活性と受精嚢に到達する精子数との関係を明らかにしようと試みた。実験には、主として、ナミアゲハとクロアゲハを用いた。2日齢の雄を未交尾雌とハンドペアリング法によって交尾させ、交尾後の雌体内における精子移動数を調べた。また、交尾後24時間経過した雌の受精嚢内の有核精子の回転運動を測定した。
自由有核精子に換算すると、1回の交尾で、クロアゲハは約35,000本、ナミアゲハは約16,000本注入されていた。無核精子の注入数はクロアゲハで約160,000本、ナミアゲハで約270,000本であった。しかし、受精嚢に達した精子数は両種で違いは認められず、有核精子は約3,000本、無核精子は約5,000本ほどである。精包に残存していた精子数にも有意な差は無く、移動中の精子消失数は、有核精子がクロアゲハで約30,000本、ナミアゲハで約12,000本、無核精子は、クロアゲハで約150,000本、ナミアゲハで約260,000本である。
有核精子の回転活性速度は、クロアゲハで0.34㎜/s、ナミアゲハで0.28㎜/sとなり、クロアゲハのほうが活性は高い傾向を認めた。有核精子長はクロアゲハで1,040μm、ナミアゲハで950μm、無核精子は両種とも400μmほどで差は認められなかった。
これらの結果から、有核精子の活性が高ければ無核精子の必要性が低くなるという仮説は満たせそうであった。今後は、同様に無核精子の活性も測定し比較検討する予定である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

実験開始1年目において、アゲハ類の交尾における注入精子数の種間比較を行なえたと同時に、シロチョウ類・キタキチョウなどの注入精子数も明らかにできて、比較検討の緒に就くことができた。
交尾嚢から受精嚢への精子移動について、定量的に明らかにしたとともに、その間の消失数についても測定することができた。25年度には交尾嚢-受精嚢間の消失場所の特定を解明したいと考えている。
精子運動活性の測定は、試行錯誤が始まったばかりである。この測定技術には、多くの難問を超えねばならないので、24年度に有核精子の活性が測定できただけでも、進歩と考えている。しかし、無核精子の活性の測定技術の向上には時間がかかるかもしれない。
無核精子が受精嚢まで達し、その後消失・吸収されていくことがアゲハ類だけでなく、他の蝶類でも同様の傾向をもつことも明らかにしつつあり、無核精子の役割の一般化という目的に対しては、ほぼ順調に進んでいるといえる。

今後の研究の推進方策

本研究の前提は、雌が生涯に複数回交尾する多回交尾制の種において生じる精子間競争である。したがって、雌が複数回交尾したときの無核精子の役割を明らかにしなければならない。
24年度に処女雌に対する精子の注入数というコントロールを作成できたので、25年度は、交尾済みの雌に対する注入数と、その後の移動数を明らかにしていく予定である。そのためには、ハンドペアリング技術の向上が必要である。また、すでに注入されていた精子と新たに注入される精子の区別方法の技術も開発する予定である。これらを一般化するために、アゲハ類だけでなく、他の蝶類も適宜実験して、一般化を図りたい。
精子活性の測定技術を向上させ、有核精子と無核精子の活性を、精包内や移動中、受精嚢内の様々な場所で特定し、比較検討する予定である。その際、移動速度などの測定と共に、移動中の消失状況の予備的観察を行なう予定である。これらから、無核精子の役割を考察していきたい。

次年度の研究費の使用計画

直径0.5㎜の内視鏡を購入し、雌体内における精子の移動を観察する予定である。ただし、この内視鏡の操作技術に習熟するため、使用する種は、ナミアゲハやクロアゲハだけでなく、他のアゲハ類やシロチョウ類などを用いる予定である。この観察結果棟については、25年度が予備的実験とし、26年度に本実験を行なえると考えている。
25年度には、アメリカ・鱗翅目学会において、24年度の結果報告を行なう予定であり、26年度に開催される4年に1回の蝶類の生態・行動・進化シンポジゥムの準備を開始することになり、現在、準備中である。
なお、2012年度3月の出張について、出張手続き自体は事前に行なっていたものの、支払いが4月に行なわれたため、書類上、次年度使用額へ「30860円」繰り越されている。

  • 研究成果

    (7件)

すべて その他

すべて 学会発表 (7件) (うち招待講演 1件)

  • [学会発表] The role of apyrene sperm in the polyandrous swallowtail butterflies

    • 著者名/発表者名
      Watanabe, M.
    • 学会等名
      XXIV International Congress of Entomology
    • 発表場所
      Daegu, Korea
    • 招待講演
  • [学会発表] キタキチョウの季節型と雄の注入精子数

    • 著者名/発表者名
      小長谷達郎・渡辺 守
    • 学会等名
      第31回日本動物行動学会大会
    • 発表場所
      奈良、奈良女子大学
  • [学会発表] キタキチョウの雄の精子生産過程

    • 著者名/発表者名
      小長谷達郎・東 敬義・渡辺 守
    • 学会等名
      日本生物教育学会第94回全国大会
    • 発表場所
      広島、広島大学
  • [学会発表] キタキチョウの雄の精子生産速度と注入精子数

    • 著者名/発表者名
      小長谷達郎・渡辺 守
    • 学会等名
      第60回日本生態学会大会
    • 発表場所
      靜岡、静岡県コンベンションアーツセンター
  • [学会発表] アゲハ類の精子における運動活性

    • 著者名/発表者名
      武藤直樹・渡辺 守
    • 学会等名
      第31回日本動物行動学会大会
    • 発表場所
      奈良、奈良女子大学
  • [学会発表] アゲハ類における精子の移動と活性の観察

    • 著者名/発表者名
      武藤直樹・渡辺 守
    • 学会等名
      日本生物教育学会第94回全国大会
    • 発表場所
      広島、広島大学
  • [学会発表] アゲハ類における精子の授受と活性

    • 著者名/発表者名
      武藤直樹・滝 若菜・渡辺 守
    • 学会等名
      第60回日本生態学会大会
    • 発表場所
      靜岡、静岡県コンベンションアーツセンター

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公開日: 2014-07-24  

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