研究課題
防衛のための高度に特殊化した兵隊の存在は,社会性昆虫のシロアリが持つ大きな特徴である。兵隊分化は,職蟻の幼若ホルモン(JH)量の上昇に応じて起こるが,JH量の変動をもたらす調節因子の実体は未だ不明である。また,職蟻へのJH投与による人為的な分化誘導解析から,兵隊分化時の個体の生理状態が種間で大きく異なる可能性も示されている。そこで本研究は,自然条件下の兵隊分化に伴う生理変化を検出する為,種を問わず兵隊分化がほぼ同じタイミングで起こる創設直後のコロニーに注目する。本年度は,昨年度から引き続いてネバダオオシロアリの初期コロニーで同定された候補因子(リポカリン様タンパク質)の解析を進めた。具体的には,RNAiの解析個体数を増やし,コントロール(DWおよびgfp dsRNAのインジェクション)と比較して,候補因子のRNAiでは兵隊分化率が有意に低下し,半数以上の個体が職蟻へ脱皮することを確認した。さらに,インジェクション後の行動解析も行い,兵隊分化には生殖虫(特に女王)との個体間相互作用の頻度が重要である可能性を示した。また本年度は,兵隊を特徴づける形態の変化に拘わる因子の解析も行った。具体的には,ヤマトシロアリの兵隊のクチクラに注目し,分化過程での組織変化を観察すると共に,クチクラ形成に関係する遺伝子の発現解析を行った。その結果,チロシン代謝経路を構成する遺伝子(Laccase2)が,兵隊分化過程で顕著に働くことが重要であることが示唆された。以上の結果の一部は,原著論文にまとめると同時に,第49 回日本節足動物発生学会,第84回日本動物学会,第73回日本昆虫学会,第58回日本応用動物昆虫学会,平成25年度日本動物学会中部支部会(優秀学生発表賞受賞)にて発表した。
2: おおむね順調に進展している
RNA-seqによる候補因子の特定は昨年度に行うことができ,その後の機能解析もスムーズに進行している。ただし,他の候補因子に関する解析は殆ど進んでいないため,(2) とした。
兵隊分化前に特異的に発現する候補遺伝子の作用機序を詳細に明らかにすることを目指す。まず特異的抗体を作製し,免疫組織染色を行うことで発現部位やタンパク質の挙動を確かめる。RNAiを利用したノックダウンの効果を,行動学的・分子生物学的に更に解析を進める。ネバダオオシロアリ以外の対象種(シロアリおよびゴキブリ)からもホモログを取得し,候補遺伝子の分子進化学的な解析も進める。最終年度のため,成果を取り纏めてハイグレードなジャーナルを目指した論文執筆も行う。
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http://www.sci.u-toyama.ac.jp/bio/maekawa-lab/research12.html