研究課題/領域番号 |
24570023
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小澤 理香 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (90597725)
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研究分担者 |
有村 源一郎 京都大学, 生態学研究センター, 准教授 (60505329)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | カンザワハダニ / トランスクリプトーム解析 / 寄主植物 |
研究概要 |
植食者の食性幅の決定には、植食者と寄主植物の相互作用の特異性が重要な鍵となるが、その分子機構に関する研究は未だ少ない。本研究では、マメ科植物の利用能が異なる2系統のカンザワハダニ(Tetranychus Kanzawai)を用いて、これら2系統間の「トランスクリプトーム解析」および「RNAi法を用いた候補遺伝子の発現抑制」により、ハダニの食性にかかわる遺伝子群の単離・機能解析を試みる。さらに寄主植物を変えた場合の「植物の防御応答」と「候補遺伝子の発現」を解析することで、食性幅の決定にかかわる分子メカニズムを明らかにすることを目的とする。本年度は、2系統のハダニのトランスクリプトーム解析を次世代シークエンサーを用いて実施し、消化酵素や解毒に関わる酵素を中心に、食性に関わる鍵遺伝子の探索を行った(継続中)。また、マメ科植物以外のナス科植物でも、2系統のハダニは植物利用能が異なることを見出した。 寄主適応性は、植物と植食者の生理特性(例えば、毒物質の生産と解毒酵素)に強く依存するため、形態的には見分けられない隠れた表現型となることが多い。そのため植食者の寄主選好性に関する先行研究は多いものの、分子・遺伝子を基盤とした研究は、技術的な壁からカイコのようなモデル生物を除いてはこれまで行われてこなかった。また、ハダニは自然生態系で多様な植物との相互作用を示すが、その分子生物学的要因はほとんど研究されていない。本研究ではハダニに焦点を当て、寄主植物適応性の分子メカニズムの新たな多様性の発見を目指している。本成果は、他の分野や応用に展開できる有意義なものになると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
候補遺伝子を確実に発掘するために、当初計画したよりも多いハダニ系統を選抜したために計画よりも若干の遅れが生じた。系統数を増やすことで遺伝子発現の違いが個体差によるものではなく、ライン間での遺伝的な差によるものであることを証明することができる。
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今後の研究の推進方策 |
データの信頼度を高めるため、次年度は、次世代シークエンサーによる追加のトランスクリプトーム解析を行い、ハダニの系統間で発現パターンの異なる遺伝子を発掘する。近縁種であるナミハダニのゲノム情報が公開されたこと、次世代シークエンサーを用いることで、候補遺伝子の発掘がより確実になると予想される。以下、研究計画に従い、①まず、発掘した候補遺伝子の発現解析を行い、遺伝子抑制に用いる候補遺伝子を選抜する。②次に、RNAi法による遺伝子発現を抑制したハダニを作成し、候補遺伝子の食性への関与を解析する。このため、対象遺伝子の二本差RNA(dsRNA)を過剰発現させた寄主植物を作成する。dsRNA過剰発現組み換え植物の作成は今年度に開始する。また、dsRNAをアグロインフィルトレーションにより過剰発現させた植物(インゲンマメ)の作成も並行して行い、これらをハダニに摂食させることにより、ハダニ体内の遺伝子の発現を抑制し、遺伝子機能の探索を試みる。③さらに、植物の防衛を誘導させる遺伝子の解析を行う。2系統のハダニはマメ科植物に異なる防衛反応を誘導する。各系統に対して異なる価値(質)を示した寄主植物をそれぞれの系統のハダニに摂食させ、植物の誘導防衛反応の指標となる植物ホルモン(ジャスモン酸、サリチル酸)をLC-MS/MSにて定量する。植物ホルモン量と制御系遺伝子の発現プロファイルの相関から、植物の誘導防衛の制御にかかわる遺伝子を絞り込む。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、当初マイクロアレイを用いて行う予定であったトランスクリプトーム解析を次世代シークエンサーを用いて行ったため、予算と実際の研究費の使用に差が生じた。次世代シークエンサーによる解析は、当初予定していた近縁種を用いたマイクロアレイ解析よりも、情報量として優れており、昨今の解析技術の向上とコストパフォーマンスの理由から採用した。次年度は、追加のトランスクリプトーム解析を行う予定である。
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