研究課題
植食者の食性幅の決定には、植食者と寄主植物の相互作用の特異性が重要な鍵となるが、その分子機構に関する研究は未だ少ない。本研究では、マメ科植物に異なる防衛反応を誘導する2つの系統のカンザワハダニ(Tetranychus kanzawai)を用いて、これら2系統間(赤系統、白系統)のトランスクリプトーム解析により、植食者と寄主植物の相互作用にかかわる遺伝子群の単離・機能解析を試みた。前年度はRNA-seqによりこれらの系統間のトランスクリプトーム解析を実施した。当該年度は、トランスクリプトーム解析において、赤系統と白系統で遺伝子発現量の異なった解毒にかかわる3種類の酵素の活性測定を行った。その結果、赤系統では白系統よりも、glutatione S-transferase [GST], carboxylesterase等の解毒系酵素の活性値が高かった。しかし、二次代謝物質が多く含まれるアジサイ科1種とシソ科3種の植物葉を用いて、各系統での産卵数を比較したところ、各系統間で有意な差は認められなかった。ゆえに、赤・白系統での解毒作用の違いが寄主植物への適応に関わる可能性は低いと考えられる。一方、解毒系酵素の活性の違いは、ハダニの農薬耐性能力に関係する可能性がある。そこで、各系統における農薬処理後の生存率を比較したところ、5農薬中3農薬で赤系統の生存率が高く、このことから、赤系統では潜在的に農薬(殺ダニ剤)への耐性が獲得されている可能性が示された。容易な農薬抵抗性の獲得は、ハダニの防除を難しくしている一因であり、今回の成果はハダニ防除への応用における1つの知見となりうる。現在、これら成果を論文にまとめているところである。
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