研究課題/領域番号 |
24570028
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小池 一彦 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (30265722)
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研究分担者 |
山下 洋 独立行政法人水産総合研究センター, 西海区水産研究所, 任期付研究員 (00583147)
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キーワード | サンゴ / 褐虫藻 / さんご礁 / ストレス / 白化 |
研究概要 |
2012年10月に行った実験の詳細な解析と,2013年9月にサンゴからの褐虫藻放出現象の観察の3回目の実験を行った。2012年10月に,ミドリイシ属サンゴ2種を用いて水槽実験を行い、30℃という穏和な水温ストレスを長期間与えて褐虫藻の放出を観察した。また,サンゴ骨格面積あたりの放出量とするために,サンゴ骨格の3Dモデリングを行った。褐虫藻の放出量は27℃と30℃での有意な差は見られず,温度ストレス下においても正常細胞と消化された細胞の両者が混在していた。しかしながら,放出された褐虫藻のFv/Fmを細胞ごとに測定すると,30℃に暴露する時間が長くなるにつれ,Fv/Fmの低下した細胞の割合が多くなった。30℃においては褐虫藻へのダメージが先行し,サンゴが光合成系に損傷を受けた褐虫藻を選択的に放出したと考えられる。このように,温度ストレス初期段階においてダメージを受けた褐虫藻を積極的に放出することで,サンゴがストレスに適応しているのかもしれない。2013年9月に,タチハナガサミドリイシを採集し,ろ過海水入りの透明バケツ(13 L)に入れ,水深2 mの漁礁の上で4時間インキュベートし,褐虫藻の放出を観察した。これを5日間繰り返した。最後の1日はバケツに遮光性のシートをかぶせて,弱光下での褐虫藻の放出現象を観察した。インキュベートの間,水温は特にストレスを与える範囲ではなかった。しかし,放出された褐虫藻のFv/Fmは明らかに低かった。一方,弱光下(5日目)で放出された褐虫藻のFv/Fmはサンゴ内の褐虫藻のそれとほぼ同じだった。このことより,現場では高い光量子束密度により,サンゴ内ですでに光合成系にダメージを受けた褐虫藻が存在し,サンゴが積極的にこれらを放出しているか,環境中に褐虫藻が放出された後に強光によりダメージを受ける可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究の当初は,サンゴから放出される正常形態の褐虫藻のみに注目していた(他の研究者もそうである)。しかし,研究を進めて行くにつれ,消化された褐虫藻の存在がクローズアップされ,その放出はサンゴにとって正常なメカニズムであり,そうではない放出(異常な形態の細胞の放出)は,サンゴの白化につながる「共生機構のブレイクダウン」の兆候であることが明らかになった。このメカニズムと同時に,サンゴは常に一定割合の「正常な形態の褐虫藻」を放出している。この細胞群は,十分な光合成活性を持つものと,そうでは無いものに分かれ,前者は次なる感染ソースとして重要であることが分かった。一方,後者は,形態的には正常でも光合成能を有さず,この様な細胞の増加は感染ソースとなるポピュレーションの低下,すなわちサンゴー褐虫藻共生体の拡大を阻害する要因となるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
正常な携帯で,十分な光合成活性持つ放出褐虫藻の,次なるステップ(遊泳,誘引,感染)の連続的な検討が必要である。研究分担者による実験において,現場から分離した褐虫藻の光誘因効果が確かめられており,今後,その感染についてより実験をおこなっていく必要がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
旅費が計画よりも少なく,また,論文投稿のカラー印刷代などが平成26年度にまわったため。 5月から6月にかけて,より長期の現場調査を行う。その際に,研究協力者の大学院生2名の補助を得る。また,論文投稿は3件を予定している。
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