研究実績の概要 |
今年度は高山帯における各種環境に対する二次代謝産物、特にフラボノイドを用いた植物の環境適応を研究するために、ウルップソウやヨモギ属各種、エゾヨモギギク、キク属各種のような高山あるいは亜高山に生育する植物を材料として、それらに含まれるフラボノイドの質的および量的分析を行った。またこれと平行して、類似した激しい環境である、直接潮風や塩水にさらされるフクド、ハママツナ、ハマサジのような海岸に生える植物のフラボノイドやフェノール化合物についても定性および定量的実験を行った。この実験については、年間を通して定時的にサンプリングを行い、量的変動も観察した。その結果、例えばフクドでは細胞外にフラボノイドが存在し、このうち細胞外のものについてアセトンで抽出し、これを各種クロマトグラフィーなどで分離し、さらにNMR、LC-MS,基準標品とのHPLCやTLCでの比較の結果、ポリメチル化されたAxillarin, Jaceosidin, Sudachitinなどのフラボノール、あるいはHispidulinなどのフラボン系のフラボノイドを多量に蓄積していることが判明した。一方、細胞内にはクロロゲン酸を主要成分として2種類の芳香族有機酸が含まれていたが、フラボノイドはほとんど認められなかった。以上の結果からフクドについては主に細胞外のフラボノイドが海岸のさまざまな環境圧に対して、反応している事が判明した。キク属植物では環境圧に対して細胞内の一部のフラボノイドを特異的に増加させ、また細胞外では、特に塩および乾燥によってほぼすべてのフラボノイドを一様に増加させる傾向がみられた。以上より、葉の細胞外と細胞内に存在するフラボノイドは環境ストレスによって、植物によってもその応答は異なり、その機能も異なると予想された。
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