研究課題
基盤研究(C)
光学系IIの強光ストレス応答におけるカロテノイドの役割を解明するため、カロテノイド(ゼアキサンチンやエキネノン)を欠損したシアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803の変異株を作製して、光化学系IIの光阻害への影響を解析した。さらに、Synechocystisには、カロテノイドを構成要素とするオレンジカロテノイドプロテイン(OCP)によって過剰エネルギーを熱として放散する仕組みがある。そこで本研究では、OCP欠損株を作製して、光化学系IIの光阻害とカロテノイドによる熱放散の関係も調べた。カロテノイド欠損株では、野生株に比べ光化学系IIの光阻害がより顕著に進行した。しかし、クロラムフェニコール存在下で光化学系IIの光損傷を比較すると、双方の株に差は見られなかった。したがって、カロテノイドは光化学系IIそのものを保護するのではなく、光化学系IIを修復する過程を保護していることが示唆された。また、光化学系IIの修復で中心的な役割を担うD1タンパク質の新規合成を比較すると、カロテノイド欠損株では野生株に比べ低下していた。これらの結果から、カロテノイドはタンパク質の新規合成を活性酸素の阻害作用から保護していることが示唆された。また、カロテノイド欠損株とOCP欠損株では、ともに野生株に比べNPQが抑制されており、双方の欠損株で熱放散が十分に機能していないことがわかった。さらに、カロテノイド欠損株とOCP欠損株で光阻害を比較すると、カロテノイド欠損株においてより顕著な光阻害が見られた。以上の結果から、カロテノイドは活性酸素の消去、およびOCPを介した過剰エネルギーの熱放散という二つの働きによって、タンパク質合成を活性酸素から保護し、光化学系IIの修復を促進することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、光合成の強光ストレス傷害からの再生機構の解明を目的としており、平成24年度の研究により光化学系IIの強光応答におけるカロテノイドの役割を解明することができたことは大きな前進であった。
本研究では、光化学系IIの光損傷と修復で中心的な役割を担っている酸素発生系マンガンクラスターと反応中心タンパク質の再生機構を明らかにする。(1) 研究材料として、まず全ゲノムが解読され、遺伝子操作が容易なモデル生物のラン藻Synechocystis sp. PCC 6803を用いる。(2) マンガンクラスターの再生を担う遺伝子群を、鉄硫黄クラスター生合成遺伝子の情報をもとに、バイオインフォマティックスの手法を使って絞り込み、逆遺伝学的手法によって目的の遺伝子を同定する。(3) 反応中心タンパク質の再生に関しては、申請者らが近年開発した“in vitro再生系”や逆遺伝学的手法を使用して、D1タンパク質の合成や挿入の制御機構を中心に解析し、その再生機構の全容を解明する。その際、タンパク質合成系の制御機構に特に注目し、この制御機構が他の生物にも普遍的に存在するかどうかも明らかにする。(4) 次に、マンガンクラスターや反応中心タンパク質の再生を担う遺伝子の改変や過剰発現を行うことによって、光合成の強光ストレス耐性を増大させる。(5) さらに、ラン藻で得られた知見をもとに、一連の再生遺伝子をシロイヌナズナの葉緑体で発現させ、植物の強光ストレス耐性の増強を試みる。
該当なし
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