研究課題
光化学系II(PSII)は強光に対して感受性が高く、容易に失活する。近年、D1タンパク質などPSIIの修復に必要なタンパク質の新規合成が、強光下で発生する活性酸素によって翻訳伸長の段階で阻害されることが明らかになっている。これまでにシアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803では、タンパク質合成系の翻訳因子EF-Gの酸化が修復阻害の要因の一つだと特定されている。しかし、他の翻訳因子が酸化傷害を受けているかどうか不明である。そこで本研究では、翻訳伸長に関与する他の翻訳因子EF-Tuの酸化感受性をin vitroとin vivoの双方の系で明らかにすることを目的とした。組み換えEF-Tuタンパク質を作製して酸化感受性を調べたところ、過酸化水素の存在下でCys82が分子間ジスルフィド結合を形成して失活することがわかった。さらに酸化型EF-Tuの一部が20量体以上からなる巨大な複合体を形成することや、これらの酸化型EF-Tuはチオレドキシンによって還元され再活性化されることもわかった。次に、PSIIの強光応答と翻訳因子EF-Tuの失活との関連をin vivoで調べるために、Cys82をセリンに改変した変異型EF-Tu(C82S)を共発現させた株(共発現株)と野生型EF-Tuを過剰発現させた株(過剰発現株)を作製してPSIIの光阻害を解析した。その結果、両変異株では野生株に比べてタンパク質合成に依存したPSIIの修復が促進し、光阻害が緩和された。しかし、さらに強い光条件下において、共発現株では逆に光阻害が促進した。以上の結果から、EF-Tuも活性酸素の標的であるが、その酸化傷害が強光ストレス応答で防御的な役割を担っていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
H25年度の研究で、シアノバクテリア翻訳系でEF-G以外の酸化的因子EF-Tuを同定できたことは当初の計画通り研究が進行していると言える。また、EF-Tuの過剰発現や改変によってタンパク質合成の酸化ストレス耐性が増大し、光化学系IIの強光ストレス耐性が著しく増大したことは、当初の予想を超える成果であった。しかし、光化学系II自身の再構成機構に関しては研究が遅れいている。
翻訳因子EF-Tuの過剰発現株や改変株において、強光ストレス条件下でEF-Tuのレドックス状態をモニターする必要がある。また、in vitroの実験系で見えたEF-Tuの巨大複合体の構造解析や、in vivoにおける観察も実施する必要がある。さらに、光合成の強光ストレス耐性における翻訳因子EF-GおよびEF-Tuのレドックス変化の生理学的役割を解明していく予定である。最後に、光化学系II複合体の再生機構を、研究代表者らが開発したin vitro修復系を使って明らかにしていく予定である。
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