植物における中心代謝から特異代謝へ代謝アロケーションの調節機構を明らかにするために、本研究ではマメ科あるいはヒカゲノカズラ科植物においてアミノ酸リジンからアルカロイドへの分岐点を司るリジン脱炭酸酵素を用いて、オルニチン由来のニコチンとリジン由来のピペリジンアルカロイドを生産するタバコにおけるリジン代謝を改変した。具体的には、ホソバルピナスおよびヒカゲノカズラ由来のリジン脱炭酸酵素遺伝子(La-L/ODCおよびLcl-L/ODC)をAgrobacterium rhizogenesを介したバイナリーベクター系によりリジン脱炭酸酵素遺伝子を高発現するタバコ毛状根を誘導した。これらの毛状根では、オルニチン由来アルカロイドのニコチン蓄積量は変化しなかったが、アナバシン等のピペリジンアルカロイドの蓄積量が増加し、外来リジン脱炭酸酵素によってこれらのアルカロイド生産が増加したことが示された。これらの毛状根に安定同位体標識されたリジンを投与した。αあるいはε位のアミノ基が15N標識されたリジンを培地に添加したところ、コントロールの毛状根ではε位のN原子みがアルカロイドに取り込まれ、La-L/ODCあるいはLcl-L/ODCを導入した毛状根ではαならびにε位のN原子の両方がアルカロイドに取り込まれることが示された。外来酵素が付加されたアルカロイド生産では、中間体としてフリーのカダベリンを経ることが示唆された。
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