研究課題/領域番号 |
24570043
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 直樹 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (40154075)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 細胞運動 / シアノバクテリア / ゲノム解析 / 数理モデル |
研究概要 |
本研究は,生物の「生物らしさ」の本質を理解するため,創発的な現象の代表例として,シアノバクテリアのフィラメントが集団で形成する2次元・3次元の構造形成に関わる遺伝子の解明とともに,運動の力学的解析を通じて,構造形成の数理的な解明を目指している。そのため,Phormidium sp. strain KSのゲノム配列の解析と,細胞運動と増殖の時間経過を記録する手法の開発をおこなった。 1.ゲノム解析:KS株の細胞を大量培養し,塩化セシウム超遠心により,ゲノムDNAを調製した。これを,共同研究先に送付し,Rocheの454シーケンサーによる配列解読を行った。第1回目の解析では,13Mbp以上,250個あまりのscaffoldが得られたが,詳しく見ると,シアノバクテリアの配列の他に,明らかに異なる2種類の細菌の配列が混ざっていた。この理由は,KS株に大きな運動性があるためにコロニーができず,そのために純化が難しかったことがある。そのため,trimethoprim存在下での培養を繰り返し,細菌を除去する処理を行った。再度DNAを調製し,シーケンスを行った。この結果,80万リード,2億塩基対の配列から,32個のscaffoldを含む合計9.7Mbpのゲノム配列(平均の厚さ23)を得た。 2.運動解析:KS株は,数十個の細胞が連なったフィラメントが,数分の周期で前後運動を繰り返す。この運動を記録するため,観点培地上の比較的短いフィラメントを用いて,顕微鏡観察を行い,CCDカメラで経時的に記録した。方向転換の後,最初の速度が最も速く,その後,速度が低下するという特徴があった。往復周期は,片道,300-400秒であり,その間に約100マイクロメートル進んだ。フィラメントが長いほど,速度は大きかった。渦巻き形成は,フィラメントが潜り込まない1.5%以上の寒天培地上で見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲノム解析は,ゲノムサイズが大きいために時間がかかっているが,概ね,予想通りの進行状況である。細胞を再度純化したことにより,きれいなゲノム配列を得ることができている。その後,通常はシアノバクテリアの培養に用いない別の培地を用いた培養条件では,コンタミのない培養ができることもわかり,こうした,コロニーを作らない細菌の扱い方として,他の細菌の扱いにも応用できる可能性があり,大きな進歩が得られたと評価できる。 細胞運動の解析については,CCDカメラを用いて記録した連続画像を解析し,さまざまな基礎的な運動パラメータを得ることができた。これをもとにして,次の解析に臨むことができる。 さらに,培地濃度が構造形成に影響を与えることが分かったことも,大きな進歩である。 以上,まとめると,概ね順調に進展していると言うことができる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り,ゲノム配列の全体像を明らかにすることが,第一の目標である。ある程度,配列が整った段階で,タンパク質配列を取りだして,Gclustを用いたクラスタリングによるアノテーションを行い,細胞運動に関わる遺伝子を同定する。 一方で,細胞の運動に関して,さらに進んだ詳細な解析を進める。短い細胞フィラメントの周期的運動の記録と解析のため,前年度に求めた代表的な条件,つまり,渦巻きを作る条件と 作らない条件のそれぞれを使って,短い細胞フィラメントの運動を記録し,解析する。さらに,長いフィラメントの運動の記録と解析のための,実験方法の準備をすすめる。 また,細胞運動や光受容に関わると推定されるタンパク質をコードする遺伝子の破壊を行い,構造形成に対する効果を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初,ゲノム塩基配列を決めるために,外注を行う予定であったが,共同研究ベースによる配列決定が進められ,ある程度の情報が得られたが,ゲノム配列を完成するには,今後PCRによるDNAの増幅と,Sanger法による,そのシーケンスが必要である。今回,持ち越した研究費は,このシーケンス解析に用いることになる。
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