研究課題/領域番号 |
24570046
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
望月 伸悦 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60280939)
|
キーワード | 葉緑体シグナル / 環境応答 / 遺伝子発現 / シグナル伝達 |
研究概要 |
プラスチドは光合成や物質代謝の場であるばかりでない。たとえば、外部環境刺激(低温・乾燥・病害)や、それ自身の分化・機能状態を細胞(核)にフィードバックして伝える、いわゆる逆行シグナル(プラスチドシグナル)情報伝達系を利用し、細胞機能を調節している。逆行シグナルは、細胞核に於ける転写を調節すること、および原始紅藻においては細胞周期の制御にも関わっており、細胞内共生の確立と共に進化してきた真核細胞普遍的な現象である。本研究では、この逆行シグナルに関わるbZIP型転写因子GBF1、LOV-Fbox-kelch構造をもち概日時計や花成時期の制御で働くLKP2、さらにストレス応答やTORシグナルに関与すると考えられているTCTP遺伝子について、当初計画の通り分子遺伝学的解析を進めた。既知のプラスチドシグナル伝達系突然変異体(gun)との二重変異体を作製したところ、GBF1過剰初減退とgun1およびgun5変異において遺伝学的相互作用が観察された。一方、GFPタグを付加したTCTPを発現したアラビドプシス形質転換体について、逆行シグナルが生ずる条件下での細胞内局在を観察したが、顕著な変化が見られなかった。これについては、次年度以降にさらに詳細な解析と、生化学的な解析を進める。概日時計とgunシグナルについては、LKP2以外に、CCA1過剰発現株も取得しており、これらの解析を進めている。 また、昨年度新たにゼニゴケを材料とした葉緑体シグナルの解析を始めた。今年度は、ゼニゴケを薬剤処理して葉緑体分化が阻害された際に見られる、核遺伝子の発現変化について、RNAseq法を試みた。得られた大量データの解析を進めた。また、このシグナル伝達に関わるGUN1およびGUN5遺伝子のノックアウト株作製を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記候補遺伝子の過剰発現体およびgun変異体との二重変異体作製とその解析が順調に進んでいる。一方、ノックアウト株の解析についても、TCTP(致死)以外は予定通り同定出来ている。また、新たに導入した実験植物であるゼニゴケを用いた実験でも、葉緑体シグナル伝達の存在を示唆する生理学的データが蓄積しつつある。ゼニゴケについては、RNAseqデータの解析に予想以上の時間がかかっているが、予備的結果から実験自体は成功していると判断した。ゼニゴケGUN1およびGUN5 については、相同遺伝子が存在する可能性があるため、単純なノックアウト株の作製では表現型の解析が出来ないかもしれない。現在RNAiラインの作製を計画しており、この点は当初予定より若干の遅延を生じている。これらの状況を総合して、当初の研究計画がおおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
アラビドプシスを用いた研究では、二重変異体、多重変異体・多重過剰発現体を得ることで、これら遺伝子間の相互作用を調べ、年度内に結論を得る。ゼニゴケについては、相同遺伝子の問題を解決するため、RNAiラインの作製を進め、GUN遺伝子の働きを早急に調べる。 上記分子遺伝学的解析に加え、タグを付加したタンパク質を植物体内で発現し、それらと相互作用する因子の単離実験について予備実験を進めており、分子遺伝学的手法では見ることができなかった情報伝達系因子を年度内に単離・解析する予定である。
|