研究課題/領域番号 |
24570048
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西浜 竜一 京都大学, 生命科学研究科, 講師 (70283455)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 環境応答 / 光受容 / 細胞周期 / 細胞質分裂 / 苔類ゼニゴケ |
研究概要 |
本研究では、光受容体や細胞周期関連遺伝子の遺伝的冗長性が極めて低い基部陸上植物苔類ゼニゴケに注目し、光依存的細胞周期制御機構の解明を行っている。ゼニゴケでは、赤色光・遠赤色光受容体フィトクロム依存的に細胞分裂が制御されている。ゼニゴケを暗処理すると細胞周期はG1期で停止し、赤色光を照射すると速やかにS期に進入することが、G1/S期サイクリンCYCDの発現やDNA合成可視化によりわかった。さらに、赤色光は光合成を介した糖の合成によりCYCDの転写を誘導すること、またフィトクロムはCYCD転写誘導及び細胞周期再進入には直接関与していないものの、CYCD発現を転写後レベルで調節すること、さらにS期以降の細胞周期制御に関与することが示唆された。ゼニゴケは糖があっても暗所では成長できないことから、赤色光は光合成とフィトクロムを介して、少なくとも2段階で細胞周期を制御しているという新しい知見を得ることができた。また、恒常的に赤色光依存的な形態形成を行う変異体を探索し、赤色光応答を負に制御するフィトクロム結合因子PIFの変異体が得られた。 細胞質分裂時には、細胞板構築部位に数多くのタンパク質が輸送される。被子植物で細胞板形成に機能することが示されたキネシンNACKは、カーゴとして、これまでにわかっているキナーゼNPK1以外にも、細胞板構築に関わる因子を輸送しうる特徴を備えている。本研究ではゼニゴケを用いてその可能性を追究している。これまでに、ゼニゴケNACKのクローニングと、全長および様々な欠失を持つNACKとYFPの融合タンパク質発現株の作出を行い、YFP―全長NACKが細胞板形成部位に局在することを確認した。NACKが陸上植物全般で細胞板形成に関与していることが示唆された。 ゼニゴケ細胞分裂の研究に利用可能なG1/S期およびG2/M期マーカーが確立されつつあり、さらに検証していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
赤色光による細胞分裂制御機構を解析するために、交付申請書で記述した通りCYCDpro:ELuc(PEST)レポーター株を作出した。転写応答を区別して解析できたこと、さらに細胞周期進行をモニターできたことで、赤色光は、光合成・糖合成によるG1/S期移行促進と、フィトクロムによるS期以降の細胞周期進行促進、という2段階制御を介して細胞分裂を促進するという、予想以上の新知見が得られた。 恒常的に赤色光依存的な形態形成を行うT-DNA挿入変異体の探索を行い、これまでに幾つかの変異体を取得した。赤色光応答の負の制御因子PIFの変異体が得られたことは、探索法が有効であることを示しており、今後EMS変異原も用いてさらに規模を上げていくとともに、原因遺伝子を同定する。 細胞質分裂キネシンNACKの解析においては、様々なコンストラクトを作製し、形質転換体を確立しており、計画通り次年度以降にそれらを用いた解析を遂行していく予定である。NACKノックアウト株作出の方も、コンストラクトの作製および形質転換を行い、現在スクリーニングを行なっており計画通り進展している。 同調培養可能なゼニゴケ培養細胞は現在までのところ樹立できていないものの、ゼニゴケ細胞周期マーカー確立は順調に進んでいる。G2/M期マーカーとして一般的なB型サイクリンCYCBの Destruction-boxをCitrineと融合したもの、およびG1/S期マーカーを期待してCYCDのPEST配列をtdTomatoと融合したものを、それぞれ自身プロモーター下で発現させたところ、分裂組織においてパッチ状にシグナルが検出された。今後、細胞周期イベントとの関連を詳細に調べて、標識される細胞周期を特定する。 以上を総合的に考慮して、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
フィトクロムはCYCDの転写制御には関与していないことがわかったので、CYCDプロモーターにフィトクロム結合性転写因子であるPIFが結合するかどうかの検証は行わない。今後はS期以降の制御に関わる因子に的を絞って、mRNAレベルだけでなくタンパク質レベルでの蓄積量の変化が、フィトクロム活性状態に依存するか調べていく。そのために、蛍光タンパク質でタグをした主要な細胞周期制御因子を発現する株を作出し、蛍光観察とウエスタンブロットで、発現する細胞周期および蓄積量を評価する。(タグラインの解析はゼニゴケ細胞周期制御因子の挙動解析も兼ねており、細胞周期研究の基盤整備にも繋がると考えている。それに加えて、培養細胞系の樹立にも引き続き取り組んでいく。)また、種々の植物ホルモン、特にオーキシンとサイトカイニンの応答が光により変化することが知られているため、フィトクロムが植物ホルモンを介して細胞周期を制御する可能性も追究していく。さらに、赤色光依存的細胞分裂制御に異常がある変異体の探索を、複数の系を用いて多角的に行う。 様々な欠失を持つNACKの局在を解析し、細胞板形成部位への局在に必要な領域を同定する。また、NACKに結合するタンパク質を免疫沈降と質量分析の組み合わせにより探索する。また、酵母two-hybrid法でも結合タンパク質の探索を行う。結合タンパク質の局在を野生型株とnack変異体で調べ、NACKにより輸送されるカーゴを同定する。NACKノックアウト株は生存不能である可能性があるため、条件的ノックアウト系の構築にも取り組む。その目的に利用可能なCre-loxP系が、ゼニゴケでも作動しうることはこれまでに確認済みである。
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次年度の研究費の使用計画 |
同調培養実験を行うために研究補助者を雇用する予定であったが、培養細胞樹立が遅れており雇用できなかった。翌年度に、培養細胞を樹立したのち使用する。
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