研究課題/領域番号 |
24570048
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西浜 竜一 京都大学, 生命科学研究科, 講師 (70283455)
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キーワード | 環境応答 / 光受容 / 糖シグナル / 細胞周期 / 細胞質分裂 / 苔類ゼニゴケ |
研究概要 |
本研究では、光受容体や細胞周期関連遺伝子の遺伝的冗長性が極めて低い基部陸上植物苔類ゼニゴケに注目し、光依存的細胞周期制御機構、および細胞板形成機構の解析を行っている。 昨年度に光、特に赤色光が光合成による糖の合成とフィトクロム信号伝達を介して、細胞周期進行を促進することを明らかにした。そこで今年度は、恒常的に赤色光依存的な形態形成(水平方向への拡大を伴う成長)を行うT-DNA挿入変異体のさらなる探索や再生系を用いた生理学的な解析を行い、赤色光シグナル伝達におけるサイトカイニンの関与を示唆する結果が得られた。さらに、暗所でも糖依存的に細胞分裂が起こるEMS突然変異体の探索を行い、興味深い変異体が得られた。この変異体では、白色光下においても糖依存的な成長が見られ、そのときに赤色光形態形成が起こるが、暗所では後者は起こらなかった(カルス状に成長)ことから、フィトクロム下流の光形態形成経路は正常であるが、細胞分裂を促進する経路が恒常的に活性化されている可能性が示唆された。 細胞質分裂キネシンNACKのゼニゴケオーソログの機能解析を行うために、相同組換えによるノックアウト(KO)株の単離を行った。野生型株同士の交配由来の胞子を用いて得られた700以上の形質転換体からはKO株は得られなかった。そこで、YFP-NACK発現株を野生型株と交配して得られた胞子を用いたところ、96候補株から7株のKO株が同定された。よって、NACKはゼニゴケにおいて必須遺伝子であると考えられた。さらにYFP-NACKの分裂面への局在が、小胞形成の阻害剤であるブレフェルディンA存在下では乱れること、さらにC末端のDUF3490ドメインの欠失によっても乱れることを明らかにした。以上のことから、NACKは小胞に依存して分裂面に局在することが示唆され、DUF3490がそれを仲介する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順遺伝学的手法による解析が成果を上げ始めている。改良TAIL-PCR法により、T-DNAタギング法により得られた変異体の原因遺伝子同定効率が格段に向上した。ある変異株において、サイトカイニン合成酵素の過剰発現により赤色光形態形成が誘導されることが示唆された。またEMS変異原を用いて、光非依存的かつ糖依存的に成長する突然変異体の単離にも成功した。この変異体の表現型は、フィトクロムの下流において光形態形成制御経路と細胞分裂制御経路が切り分けられること、そして光合成と光シグナル伝達の相互作用を示唆しており、原因遺伝子の解明がブレイクスルーになる可能性がある。 今年度は当研究室において、RNA-seq解析のための一連の技術や手法の習得が進んだ。それにより、遠赤色光により発現が変動する遺伝子群が同定され始めており、さらに様々な条件で発現変動遺伝子を探索する態勢が整った。 細胞質分裂キネシンNACKは、おそらく必須遺伝子であるためKO株の取得が困難であったが、もう1コピーを別の遺伝子座に持つ株を用いることで内在遺伝子座を破壊することができた。今後、条件的発現系と組み合わせることで、機能解析を行うことができる点で意義が大きい。また、NACKの分裂面局在における小胞依存性が示唆されたことは、NACKが細胞板への小胞輸送に関与するという仮説を強く支持する。DUF3490が局在に重要な役割を果たすことから、DUF3490と結合するタンパク質を同定、解析することで、NACKの機能解明が進むことが期待される。 ゼニゴケ培養細胞の樹立、およびゼニゴケ細胞周期マーカーの確立に関しては、今年度は特に進展はなかった。 部分的に見ればやや遅れている項目もあるが、総合的には本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
有効な手段であることがわかった変異体の探索、およびRNA-seq解析をさらに加速させる。前者においては、EMS変異体のリシーケンスによる原因遺伝子同定を進めるとともに、遺伝子同定が早いT-DNAタギングによる探索もさらに行う。後者に関しては、赤色光や葉状体切断後の再生過程などで発現が変動する遺伝子の同定を行っていく。 サイトカイニンがフィトクロムの下流において作用することを調べるために、恒常活性型フィトクロム変異体PHYY241Hを発現する株において、サイトカイニンを不活性化する酵素(cytokinin oxidase)を過剰発現させたときの、細胞分裂や形態形成への影響を調べる。 糖による細胞分裂促進機構を調べるために、糖によるCYCD遺伝子転写誘導に関わる転写因子を同定する。そのために、CYCDプロモーター結合タンパク質を酵母one-hybrid systemを用いて同定する。 NACKのどの領域が機能および分裂面局在に必須であるかを、種々の欠失変異体をnackKO株で条件的に発現させることにより調べる。また、NACKが細胞板形成における小胞輸送に関わっているかを調べるために、nack変異体における小胞マーカータンパク質(RAB11など)の挙動を解析する。NACKのカーゴを同定するために、YFP-NACK, YFP-NACK∆DUF3490およびYFP単独発現株を用いてGFP抗体を用いた免疫沈降を行い、沈降物の質量分析により結合タンパク質リストを得る。特にDUF3490依存的に結合するタンパク質に着目して、その局在や機能を解析していく。 培養細胞の樹立、および同調培養系の確立についても、引き続き行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度、在籍研究室において、次世代シーケンサーを用いたRNA-seq解析を実施する基盤が整った。そこで次年度に、ゼニゴケの赤色光応答遺伝子および再生過程で発現する遺伝子を探索するために、RNA-seq解析を行うことにした。その費用の一部を今年度の助成金から確保することにした。 RNA-seq解析に必要な試薬と次世代シーケンサーの使用料に充当する。
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