本研究の目的は、「接触形態形成に伴う植物体サイズの変化(接触刺激>小型化、刺激解除>大型化)は、窒素需給のバランス変化(小型化>窒素濃度増大、大型化>窒素濃度低下)を通じて光合成能力に影響を及ぼす(窒素濃度増大>光合成能力増大、窒素濃度低下>光合成能力低下)」という仮説の妥当性・普遍性を検討し、植物の環境応答における形態的変化と生理的変化の関連を統合的に理解することであった。 そのため、各種の植物が機械的刺激の負荷・解除の過程で示す窒素含量や光合成能力の変化を測定するとともに環境要因あるいは遺伝的要因の影響についても検討し、上記連動的変化の一般性・普遍性を検討することを目指した。さらに、一連の変化が植物の個体・群落レベルでの生産性や適応度に及ぼす影響についても検討し、その適応的意義についても考察することとした。 各種の自生植物11種を材料に、機械的ストレスの有無によりサイズに大小の違いを生じていると推定される個体間で窒素含量と光合成能力の比較を行ったところ、小型化に伴い11種中5種で完全に、また3種で部分的に、仮説と合致する変化が認められた。それらの多くは匍匐型または叢出型の多年生植物であった。また、シバ類およびシロツメクサを用いた栽培実験から、想定したようなサイズ・窒素濃度・光合成能力の連動的変化は小型化方向と大型化方向の両方について、幅広い栄養環境・光環境下で成立することが分かった。さらに、サイズ変化のメカニズムとしては細胞数の調節が重要であること、小型化はストレス下での植物体の傷害・喪失を避けるうえで極めて重要であること、小型化に伴う光合成能力の増大は生産量の現象を部分的に補償することが明らかになった。 以上の結果から、機械的刺激による体サイズ・窒素濃度・光合成の連動的変化は一定の普遍性を備えた現象であり、全体としてストレス下での生存に寄与していると考えられる。
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