過剰な光照射が葉緑体の光化学系IIに与える影響をin vitro解析と生葉を用いての葉緑体チラコイド膜の電子顕微鏡観察で調べた。 まず,強光照射したホウレンソウ葉緑体チラコイド膜で,77Kクロロフィル蛍光スペクトルの波形分析を行い,光化学系 IIおよび光化学系 Iに含まれる各クロロフィルタンパク質の示す蛍光強度の変化を調べた。その結果,タンパク質の凝集に伴う特異的な低温クロロフィル蛍光成分の変化を見いだした。また,強光照射した葉緑体チラコイド膜で,SDS/urea-PAGEとWestern分析を行い,実際にD1の損傷とCP43との架橋,LHCIIの架橋を確認した。 次に葉緑体チラコイド膜で,蛍光試薬ジフェニルヘキサトリエンを用いて蛍光の偏光解消の測定を行い,強光照射に伴うチラコイド膜の流動性の変化を見た。その結果,強光照射でチラコイド膜の流動性が増加することが分かった。更に,ホウレンソウの葉を予め過剰な光で照射しておくと,その後の強光照射で過剰な光エネルギーを熱として逃す能力(非化学的消光NPQ)が一時的に増加することが分かった。それと同時に光化学系 IIの活性も一時的に増加した。これは,前照射で葉緑体チラコイド膜に強光に備える準備ができることを示唆している。前照射の光強度強がすぎると,D1の損傷やD1とCP43の架橋,LHCII同士の架橋が進み,NPQも光化学系 II活性も低下した。 ホウレンソウ葉に強光照射した後のチラコイド膜の重層構造の変化を透過型電子顕微鏡で調べた結果,強光照射でグラナの周縁部が外側に湾曲することが分かった。これは光ストレスで損傷を受けたD1タンパク質が分解除去されやすいよう,グラナ周縁部の面積を広げたためと考えられる。
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