研究課題/領域番号 |
24570054
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
戸澤 譲 愛媛大学, プロテオサイエンスセンター, 教授 (90363267)
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研究分担者 |
小川 敦司 愛媛大学, プロテオサイエンスセンター, 准教授 (30442940)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 葉緑体 / ppGpp / 緊縮制御 / リボスイッチ |
研究概要 |
本課題では、植物葉緑体の緊縮制御を司る複数のppGpp合成・分解酵素機能の生化学的解析を通じて、シグナル機構について個別に明らかにするとともに、標的の一つと予測する葉緑体翻訳装置の標的分子を生化学的に明らかにする。同時に、新技術を取り入れた分子生物学的解析により、個々の誘発因子がもたらす植物内の生理学的変化を解明する。植物は多様な組織に分化するため、観察し難い生理学的な動態に関する研究には、リボスイッチを応用したタンパク質発現誘導システムの導入を図ることにより、人為的に誘導合成したppGpp合成がもたらす植物内の生理学的な変化を詳細に調査し、ppGppシグナル伝達の下流部分の全容解明を目指す。 平成24年度には(1)ppGppによる葉緑体翻訳活性の阻害様式の解明、(2)ppGpp分解消去系の機構解明、(3)リボスイッチシステムの導入によるバクテリアと真核生物における緊縮制御系増幅系の構築、の3項目の実施を計画していたが、これまでに項目(1)についてはppGppによる植物葉緑体の翻訳活性阻害様式を明らかにして論文発表を完了した。項目(2)については、植物葉緑体RSH1タンパク質のppGpp分解酵素を生化学的解析により明らかにし、学会発表を行った。項目(3)については、葉緑体の起源であるラン藻をモデルとしたリボスイッチ構築に成功し、学会にて報告を行った。平成24年には、これらの成果に加え、新たな葉緑体ppGpp作用点としてguanylate kinaseを同定することに成功した。ラン藻より新規ppGpp分解酵素遺伝子を見出し、そのタンパク質を組換え大腸菌により合成、精製し、酵素機能解析を行った。その結果、既存のppGpp合成・分解酵素の分解酵素ドメインのみからなる最小単位の酵素タンパク質であることが判明した。これらの成果についても学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度には(1)ppGppによる葉緑体翻訳活性の阻害様式の解明、(2)ppGpp分解消去系の機構解明、(3)リボスイッチシステムの導入によるバクテリアと真核生物における緊縮制御系増幅系の構築、の3項目の実施を計画していたが、これまでに項目(1)についてはppGppによる植物葉緑体の翻訳活性阻害様式を明らかにして論文発表を完了した。また、さらに新たな葉緑体ppGpp作用点としてguanylate kinaseを同定することに成功した。項目(2)については、植物葉緑体RSH1タンパク質のppGpp分解酵素を生化学的解析により明らかにし、学会発表を行った。当初分解酵素と予想したRSH2およびRSH3のタンパク質についても生化学的な解析を進めたが、予想に反してこれらのタンパク質はppGpp合成活性のみを有しppGpp分解活性を持たないことを確認した。この成果に加え、葉緑体の起源生物の近縁バクテリアであるラン藻より、新規ppGpp分解酵素遺伝子を見出し、そのタンパク質を組換え大腸菌により合成、精製し、酵素機能解析を行った。その結果、既存のppGpp合成・分解酵素の分解酵素ドメインのみからなる最小単位の酵素タンパク質であることが判明した。項目(3)については、葉緑体の起源であるラン藻をモデルとしたリボスイッチ構築に成功し、学会にて報告を行った。この成果については現在、査読付き論文への投稿を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
1)植物個体内の葉緑体ppGpp分解消去酵素の機能解析 24年度にはRSH1のppGpp加水分解触媒活性が確認できたと同時に、当初の予想に反し、RSH2およびRSH3についてはRSH1との配列類似性を有するドメインにppGpp分解活性が存在しないことを明らかにした。従って、引き続き生化学的な機能解析を進め、3種のRSHタンパク質の酵素触媒機能についての詳細を明らかにする。RSH2/RSH3のアミノ酸配列とRSH1配列の比較により推定した触媒に関与するアミノ酸機能を置換変異により解析する。材料は既に遺伝子構築が完了しており、活性解析を進めて結果をまとめて査読付き論文へ投稿する予定である。これらの実験により、植物葉緑体に存在する全てのppGpp合成・分解関連酵素、RSH1、RSH2、RSH3、CRSH(既に報告済み)の生化学的機能解析を完了させる計画である。 2)テオフィリン誘導型緊縮制御系による葉緑体内の翻訳・転写制御の動態解析 24年度には、ラン藻を用いたリボスイッチのシステム構築を完了したので、引き続き、同リボスイッチ制御型YjbM(最小単位のppGpp合成酵素)を発現するラン藻ならびに組換え植物(材料はイネからタバコに変更した)の作製を進める。先行実験により、既にラン藻へのppGppの一過的蓄積により、色素が減退し、生育抑制が起こることを確認しているため、25年度は、光合成活性を視野に入れた生理学的な解析も計画している。後半は、作製した組換え植物を材料として,ppGpp蓄積誘導条件下における葉緑体内の翻訳活性への抑制効果、ならびに24年度に新たに確認したguanylate kinase阻害効果によるGDPやGTPの代謝変動について、放射標識化合物を利用したトレーサー実験を通じて解析を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)植物個体内の葉緑体ppGpp分解消去酵素の機能解析 この項目では、変異タンパク質遺伝子の構築、タンパク質合成・精製、酵素活性の解析が中心的な実験となるため、24年度に引き続き、タンパク質合成と精製に必要な試薬やカラム担体を中心とする生化学試薬および消耗品、ppGppの分析に必要なカラムなどの分析化学試薬および消耗品を物品費として使用予定である。また、学会での成果報告ならびに情報交換を目的とする旅費、さらには査読付き学術論文への投稿のための英文校正、投稿諸費用への使用を必要とする。 2)テオフィリン誘導型緊縮制御系による葉緑体内の翻訳・転写制御の動態解析 この項目では、ラン藻および植物体(タバコ)を用いた遺伝子組換え実験、ならびに放射標識化合物を利用したトレーサー実験を通じて解析を進める予定であるため、培養用の培地関連試薬、形質転換用試薬、ラジオアイソトープ化合物、植物抽出液調製用の消耗品類などを中心として物品費使用の計画を立てている。さらに、学会での成果報告ならびに情報交換を目的とする旅費、査読付き学術論文への投稿のための英文校正、投稿諸費用への使用を必要とする。
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