研究課題/領域番号 |
24570056
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
吉田 理一郎 鹿児島大学, 農学部, 助教 (70301786)
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キーワード | シグナル伝達 / 孔辺細胞 / 遺伝子発現 / アミノ酸 / グルタミン酸受容体 |
研究概要 |
今年度は以下の研究を中心に行った。 1)グルタミン酸を介したPR-1発現誘導にグルタミン酸受容体が関与し得るかを確かめるため、グルタミン酸受容体のアンタゴニストであるAP5およびDNQXによる効果を検討した。その結果、双方の薬剤を前処理することによりグルタミン酸によるPR-1の発現誘導が抑制されることが明らかにされた。一方、グルタミン酸受容体のアゴニストであるD-セリンに関しては、予想に反して明確な抑制効果が認められた。 2)昨年度、グルタミン酸による気孔閉鎖にABAシグナル伝達因子であるSRK2E/OST1が関与し得ることを明らかにした。SRK2E/OST1のT-DNA変異体およびost1-2変異体は共にサリチル酸による気孔閉鎖に対しても非感受性を示すこと、サリチル酸シグナル伝達因子NPR1の変異体npr1-1もグルタミン酸による気孔閉鎖に非感受性を示すことなどから、今年度は、BiFC法を用いてSRK2E/OST1とNPR1が細胞内で複合体を形成する能力があるかを検証した。その結果、両因子が細胞内で結合すること、また、その複合体が核に局在することを確認することができた。 3)グルタミン酸による気孔閉鎖にはカルシウムおよびタンパク質リン酸化が関与することを阻害剤を用いた薬理学的解析により明らかにした。そこで、カルシウム依存性プロテインキナーゼで気孔閉鎖シグナリングに関与するCPK6のT-DNA変異体を用いて、グルタミン酸による気孔閉鎖を調査した。その結果、変異体ではグルタミン酸による気孔閉鎖に非感受性を示すことが明らかとされた。また、このCPK6は陰イオンチャネルであるSLAC1を活性化することが報告されているが、この酵素遺伝子の機能欠損変異体もまたグルタミン酸による気孔閉鎖に非感受性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、グルタミン酸が動物だけではなく植物においてもシグナルとして機能することを、気孔閉鎖応答および病害抵抗性遺伝子の発現誘導の2点から明らかにすることを目的としている。 今年度は、グルタミン酸を介した気孔閉鎖シグナルにタンパク質リン酸化が関与することを阻害剤を用いた薬理学的解析により明らかにし、また、具体的にSRK2E/OST1およびCPK6がシグナルカスケードとして機能し得ることを明らかにすることができた。また、SRK2E/OST1とNPR1とが細胞内で相互作用する新規な知見が得られたことはアブシジン酸とサリチル酸シグナルのクロストークという観点からも大変興味深く大きな進展である。 グルタミン酸による病害抵抗性遺伝子PR-1の発現誘導に関しても、グルタミン酸受容体が関与し得る成果が得られた。遺伝子発現解析においては、今年度導入したリアルタイムPCR装置が大きく機能し、あらゆる意味で今後の研究の指針を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
グルタミン酸によるPR-1の発現誘導にはサリチル酸が関与することが遺伝学的および遺伝子発現レベルから示唆されてきたが、実際にグルタミン酸投与により内生のサリチル酸がどの程度変化するかを定量化して確認する。また、グルタミン酸受容体遺伝子の機能欠損変異体を用いて、グルタミン酸によるPR-1発現誘導における影響を詳細に解析する。 PR-1の発現誘導に関しては、アミノ酸のシステインがより強力に作用する結果も得られている。システインが病害抵抗性誘導に関与する報告も行われており、このシグナルがグルタミン酸受容体を介しているか否かについても検討を行う。 また、SRK2E/OST1とNPR1との相互作用に関しては、SRK2E/OST1によるNPR1のリン酸化、SRK2E/OST1のグルタミン酸およびサリチル酸による核局在性に関しても注目していきたい。 本研究では、グルタミン酸受容体であるGLR3.5に注目しているが、この受容体の細胞内局在も非常に重要である。そこで、シロイヌナズナのプロトプラストを用いた一過的発現系によりGLR3.5-GFPを過剰発現させて局在を調査する。
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次年度の研究費の使用計画 |
遺伝子発現解析に用いる消耗品類の使用過多を防ぐため、一部購入を制限した。また、次年度に多数のサンプルからRNAを抽出するためのサンプル破砕機の購入を考慮した。 次年度は主に遺伝子発現解析等の消耗品、サンプル破砕機の導入、国内学会発表に伴う旅費、論文投稿に関わる経費等に充当する。
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