研究課題/領域番号 |
24570058
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
坂田 洋一 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (50277240)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ABAシグナル伝達 / 光シグナル / ヒメツリガネゴケ |
研究概要 |
1. ヒメツリガネゴケの暗所における挙動を詳細に解析するため、野生型株およびabi1 DKO株の胞子を発芽させ、原糸体細胞が10細胞程度になったところで、暗黒化で培養を行った。その結果、野生型株の原始体細胞が完全に白色化するまでに2-3週間必要であることが明らかになった。また、多くの細胞は明条件下で再培養すると緑色を復活させて再成長を行うが、いくつかの完全に白色化した細胞では緑色が復活しなかったことから、長期間の暗培養では細胞死が起こると考えられる。一方、abi1 DKO株ではいずれの条件でも白色化することなく緑色を維持し、明条件での再培養で再成長が起こったことから、abi1 DKO株では光応答に異常が起きていることが確認できた。 2. 野生型株におけるABAの光応答における効果を調査するため、ABAの存在下で野生型株を暗条件で培養したが、明確な効果は認められなかった。一方、暗条件処理前にABA処理を行った場合は退色が抑制された。このことから、明条件下でABAシグナルが活性化することが明暗応答に重要であることが示唆された。 3. 明暗条件における遺伝子発現変化を解析するために、野生型株およびabi1 DKO株を明条件から暗条件に移して経時的に原糸体RNAを回収し、本研究室で作成したヒメツリガネゴケの全遺伝子を搭載したカスタムマイクロアレーチップを用いて、マイクロアレー解析を行った。現在、得られたデータを解析している。 4. ヒメツリガネゴケにおける明暗応答を遺伝子発現レベルでリアルタイムにモニタリングするため、光応答性発現を示すCAB1遺伝子プロモーターをクローニングし、レポーター遺伝子ルシフェラーゼ遺伝子に連結したコンストラクトを作成した。現在、このコンストラクトを野生型およびabi1 DKOに導入を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、以下に挙げるように、予想以上の進展を見せた部分と、予定通りに進んでいない部分が有り、総合的に捉えてほぼ順調に進んでいると判断した。 1. 予想以上の進展:ABAと光シグナルのクロストークは被子植物の種子においてはある程度の研究データが蓄積されているが、ヒメツリガネゴケではほとんど情報が無い。そこで、本年度は、遺伝子発現解析を行うための条件設定として、生理学的な解析を中心に行った。暗条件での緑色の退色は、当初想定していたよりも時間がかかることが明らかとなった。このため、明暗条件における遺伝子発現変化の網羅的解析に用いるタイムポイントを比較的長い期間にわたって取る必要があるため、マイクロアレー解析に時間が予想よりもかかっている。さらに、完全に白色化した細胞は細胞死を起こしていることも明らかとなった。これは、長期間の暗処理は、葉緑体の白色体への変換のみならず、細胞死のプロセスも進んでいることを示していることから、ABAシグナル伝達系を介した光シグナルはより幅広い影響を及ぼしていることが明らかとなった。 2. abi1 DKO株において発現抑制されているCOP1は、シロイヌナズナにおける光シグナル応答の重要な因子として機能している。本課題で、このCOP1遺伝子のクローニングを試みたが、現在まで成功していない。これは、ヒメツリガネゴケデータベース上の予測配列が間違っている、あるいは発現量が低い可能性が考えられる。現在、COP1のクローニング戦略を再検討している。
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今後の研究の推進方策 |
1.昨年度において、遺伝子発現解析の基礎データを入手したので、今年度はまずその解析を行い、ヒメツリガネゴケの光応答とABAシグナルの変化を大局的に捉えたい。その上で、より詳細なタイムポイントを設定して、遺伝子発現を解析し、光シグナルとABA 応答のノードを特定したい。 2.COP1についてはクローニングに難航しているが、ヒメツリガネゴケCOP1は多重遺伝子族によりコードされている。このことから、abi1 DKO株において発現が減少しているCOP1以外の遺伝子のクローニングも平行して行いたい。また、各遺伝子のプロモーター解析も行い、光応答とABA応答に関わるシスエレメントの同定を行うことも検討している。 3.CAB1プロモーターの光に応答した発現解析を野生型株およびabi1 DKO株で行い、レトログレードシグナルとの関連性を調査する。MgキラターゼHサブユニットはレトログレードシグナルとしても、ABAシグナル伝達因子としても機能することが報告されている。そこで、MgキラターゼHサブユニットを過剰発現したヒメツリガネゴケを作出し、暗条件での白色化の有無を調査する。 4.暗黒条件における葉緑体の動態を可視的に調べるため、共焦点レーザー顕微鏡を用いてクロロフィル自家蛍による光葉緑体観察を行う。葉緑体マーカー遺伝子にGFPを融合した遺伝子も作成し、GFPによる観察も行う。また、この観察によって、葉緑体の消失後、どの時点で細胞死が起こるのかも調査する。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度において、マイクロアレー解析を完了させる予定であったが、詳細なタイムコースを設定するために、当初の計画より少ないタイムポイントでのアレー解析を行った。この解析結果を見て、さらに詳細なタイムポイントを設定してマイクロアレー解析を行う計画である。
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