研究課題
基盤研究(C)
リボソームは生命活動に必須のタンパク質合成装置である。その一方、リボソームの構成因子をコードする遺伝子の欠損によって種々の発生異常が観察されることから、リボソームは特異的な遺伝子発現制御にも関わることが推定される。リボソームタンパク質の一種を欠損するrpl4dと転写制御因子の一種を欠損するas2との二重変異株は葉の向背軸制御に異常を示す。その表現型を抑圧する優性のサプレッサー変異について、2種類の原因遺伝子を同定した。それらは植物特異的なNAC型転写因子であるANAC103とANAC082をコードしていた。これらの遺伝子はrpl4d単独変異株でもmRNA量が増加していた。シロイヌナズナには100種類以上のNAC型転写因子遺伝子が存在するが、ANAC103とANAC082はお互いに最も良く似たパラログであった。これらのmRNAには本体のopen reading frame (ORF)の上流に小さなORF (upstream ORF, uORF)が存在しており、またそれがコードするペプチドの配列は、被子植物間で保存性が高いことが知られている。従って、これらの遺伝子の発現が翻訳レベルで制御されている可能性が示唆される。本研究の目的である翻訳制御を受ける発生制御遺伝子としてANAC103/082は有力な候補であり、次年度以降、優先的に研究を進める。一方、翻訳制御に関わるリボソーム側の要因として、RPL4に注目した解析も行っている。生化学的な解析は抗体作成の面などで難航している面もあるが、植物内で緑色蛍光タンパク質(GFP)とRPL4Dの融合タンパク質の発現に成功した。この融合タンパク質がリボソーム内でも機能していれば、その挙動を組織レベル、細胞レベルで追跡できるため、今後有力な研究ツールとして期待できる。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、リボソームによる発生制御遺伝子の翻訳制御機構の解明を目指している。リボソームに注目した生化学的解析と、制御される側の遺伝子に着目した、分子生物学的・発生学的解析の2つに大きく分けて、研究を進めている。生化学的解析では、構造異常をともなったリボソームの検出と活性の測定を目指しているが、抗体作成の面で特異性の高いものが得られておらず、難航している面がある。その一方、GFPラベルしたRPL4Dタンパク質の植物内での発現に成功しており、生化学的解析を補うツールとして確立できるか、次年度以降詳細な解析を進める。rpl4dによって構造異常を伴っているリボソームが存在するならば、部分欠損したRPL4タンパク質の存在が予想される。その可能性を検証するためにもGFPラベルしたRPL4Dタンパク質の有効活用を目指す。翻訳制御を受ける遺伝子としては、2種のNAC型転写因子遺伝子を同定でき、予想以上に研究が進展した。これら遺伝子はそのmRNAの構造から、翻訳制御を受ける可能性が期待されるため、次年度以降の優先的な研究対象である。また、リボソームタンパク質についてはRPL4以外にRPS28ファミリーに注目した解析も行っている。しかし、RPS28については、形質転換や遺伝学的掛け合わせの面で当初の予定よりも実験が遅れている。リボソームタンパク質の発現量が多すぎても少なすぎても植物の生育に問題が生じる可能性を考え、これらの実験を行う必要がある。その他のベクター作成、形質転換体作成などは概ね順調に進んでおり、研究計画の達成度に多少の凹凸はあるが、全体としては概ね順調に推移していると判断した。
本年度難航しているリボソームの生化学的解析については、その解析の代替手段(GFPラベルしたリボソームタンパク質の発現)に期待が持てるため、その可能性を追求する。それと同時に、当初の予定にある構造異常を伴うリボソームの検出とその活性測定のための実験も平行して進めていく。また、構造異常を伴うリボソームタンパク質が存在するならば、それをコードするmRNAも蓄積しているはずである。実際、現在用いている複数のrpl4d 変異はnull alleleではない。それらのmRNAの構造をRACE PCRを用いて特定していくことも予定している。逆の発想で、rpl4d変異株でRPL4Dに対するRNAiを行うと、残存している異常なrpl4d mRNAが除去できると考えられる。その場合、構造異常を持ったRPL4Dタンパク質がなくなるため、そのような系統ではRPL4DのパラログであるRPLAのみがリボソームに取り込まれ、正常な機能を発揮するかもしれない。この可能性は、RPL4DのRNAi系統がas2背景で、どの程度の背腹性異常を示すかである程度判断できると考えている。一方、as2 rpl4dのサプレッサー変異の解析から、翻訳制御を受ける遺伝子候補としてANAC103/082を見いだした。そのため、このサプレッサースクリーニングは、その他翻訳制御系に関わる遺伝子の同定に結びつく可能性が期待される。ANAC103/082以外の遺伝子座にマップされる、as2 rpl4dのサプレッサー変異を複数得ているので、今後それらの原因遺伝子の特定も進めていくことで、翻訳制御を受ける遺伝子を特定してゆく。
本年度は約4万円弱の繰り越しが生じた。これは、年度の境目の時期にチップ、チューブなどの消耗品、分子生物学試薬などの欠品を防ぎ、研究を停滞させないためであった。平成25年度はas2 rpl4dのサプレッサー変異株の中から翻訳制御の解明に役立ちそうなものについて、次世代シークエンス解析を行うため25万円の予算を計上した。その他の消耗品費は、分子生物学実験(PCR, 定量的RT-PCR, 形質転換植物作成、表現型解析など)、生化学実験(リボソーム関連因子のWestern解析、in vitro翻訳系による解析など)、植物栽培などに当てる。また、研究成果を発表するための国内、海外旅費も計上した。
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