研究課題
シロイヌナズナにおいて、リボソームタンパク質遺伝子の欠損は様々な発生異常を生じる。そこで、この現象に関わるリボソーム側の要因とそれに制御されるmRNAについてそれぞれ解析を進めている。特に、リボソームタンパク質遺伝子の一種RPL4Dと転写制御因子AS2の2重欠損変異株は葉が棒状化する顕著な葉の向背軸異常を示すため、詳細な解析を進めている。昨年度、rpl4d as2の向背軸異常を抑圧するサプレッサー遺伝子としてANAC103を同定した。as2の向背軸異常は第2の様々な変異によって促進されるが、ANAC103の変異は、プロテアソームサブユニット遺伝子、Elongator複合体サブユニット遺伝子の欠損によるものは抑制する一方、tasiRNA合成経路遺伝子やAN3遺伝子の欠損によるものは抑制できなかった。このことは、リボソーム、プロテアソーム、Elongator複合体に共通した何らかのプロセスが背腹性制御に重要であることを示している。一方、リボソーム側の要因としては、rpl4dおよびrpl4aの幾つかのアリルについて、5’-および3’-RACE PCR法により変異型mRNAの構造を決定した。rpl4d-3については、野生型の約1/10のレベルで変異型mRNAが蓄積していた。この変異型rpl4d-3をas2背景で過剰発現させると葉の向背軸性異常が促進された。従って、変異型RPL4Dタンパク質が向背軸性異常をもたらす一因である可能性が示唆された。また、野生型RPL4DとGFPとの融合タンパク質をrpl4dで発現させると、rpl4dの様々な表現型がある程度回復することが確認できたため、この融合タンパク質遺伝子を用いたより詳細な解析を進める準備が整った。
2: おおむね順調に進展している
昨年度問題点としてあげたリボソームの生化学的解析については、引き続き条件検討を進めている。その一方で、代替手段としてあげたGFPラベルしたリボソームについては、順調な結果が得られ、今後、組織特異的にリボソームを可視化しつつ、背腹性との関連を調べる実験や、変異型リボソームをGFPラベルするなどの実験を進めていける状況である。突然変異によるリボソームの減少が背腹性異常の原因となっている可能性を検討するため、RPL4DのRNAi系統の作出を進めているが、これも、系統が揃い出したところである。また、新規のサプレッサー遺伝子についても候補が得られ、最終年度ではその詳細な解析が期待できる。一方、rpl4とは異なった特徴を持つ、RPS28ファミリーの変異株については多重変異株がほぼ揃い、表現型解析を待つ状態になっている。また、uORFを持ち翻訳制御を受ける遺伝子の候補としてGRF5を解析している。ここでは、GRF5の発現レベルを可視化する目的で、GRF5 promoterとuORFを含む5'制御領域の下流にphytoen desaturase (PDS)遺伝子に対するRNAiカセットを連結したコンストラクトを野生型に導入し、葉が薄緑色に変化する系統を得た。この系統をEMS処理したM2種子が得られており、GRF5の翻訳制御に関わる変異株のスクリーニングも行える準備が整った。一方、翻訳制御を受ける可能性を検討しているANAC103については、その発現をモニターするレポーター系統を作出したもののレポーター活性が非常に弱く、研究材料としては不適当であることが分かった。このように、幾つかの問題点があるものの、最終年度に向けたデータ出しの準備が整っており、研究は概ね順調と判断した。
現在までにGFPラベルしたリボソームが十分機能的であることが確認できた。次年度は、それを組織特異的にas2 rpl4dに発現させ、背腹性異常が回復するかどうかを検討する。これにより、リボソームの機能が葉全体で必要なのか、特異的な組織で十分なのかについて検討を進めて行く。また、rpl4d変異に起因する背腹性異常の原因を、リボソームの量や構造異常を区別しながら解析する材料が揃いつつあるので、この点について全力で取り組む。ANAC103はrpl4d as2で過剰発現し、葉を棒状化させるが、野生型で過剰発現させても葉が棒状化することはなかった。興味深いことに、as2 rpl4d anac103でANAC103を過剰発現させても、葉が棒状化することはなかった。この原因については、組織特異的なANAC103の過剰発現が重要である可能性を考えている。しかし、ANAC103の発現パターンについては、有用なレポーター系統が作出できず、解析が難航している。この点を克服するためin situ hybridizationを行う。その情報を元にANAC103の組織特異的な過剰発現により、葉の向背軸異常が生じるか否かを検討する。一方、rpl4dやrps28b以外に特有の発生異常を示すリボソームタンパク質遺伝子の有無を検討するために、様々なリボソームタンパク質遺伝子についてT-DNA挿入変異株を収集し解析を進めている。しかしながら、現在のところ特徴的な表現型を持つ変異株は見いだされていない。最終年度も、未解析の変異株についての解析を着実に進める。
本年度は約11万円の繰り越しが生じた。これは、年度の境目の時期にチップ、チューブなどの消耗品、分子生物学試薬などの欠品を防ぎ、研究を停滞させないためであった。平成26年度もas2 rpl4dのサプレッサー変異株の1つについて原因遺伝子の特定を進めるため、次世代シークエンス解析費25万円の予算を計上した。その他の消耗品費は、分子生物学実験(PCR、定量的RT-PCR、形質転換植物作成、表現型解析など)、生化学実験(リボソーム関連因子のWestern解析、in vitro翻訳系による解析など)、植物栽培などに充てる。また、研究成果を発表するための国内、海外旅費、研究成果の論文投稿費も計上した。
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