研究課題/領域番号 |
24570061
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
町田 千代子 中部大学, 応用生物学部, 教授 (70314060)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 植物 / 発生・分化 / 遺伝子 / 発現制御 / マイクロアレイ |
研究概要 |
植物の発生分化においては、全能性を保持した分化スイッチが起ると考えられている。しかしながらその仕組みは、未だ明らかになっていない。葉は、茎頂メリステムから分化する地上部の主要な器官である。葉の発生初期には、裏側的性質をもつ細胞からなる棒状の葉原基が形成され、発生の進行に伴い表側の細胞が分化すると、表裏の境界面で細胞分裂が誘発され側方方向への葉の拡大が起こり扁平になると考えられている。我々は、すでにシロイヌナズナの葉の表側化の鍵遺伝子であるASYMMERIC LEAVES1(AS1)がAS2とともにAUXIN RESPONSE FACTOR3(ARF3)遺伝子の5’上流に結合し、転写を抑制すること、低分子RNAを介してARF3とARF4の抑制制御にも関わっていることを明らかにした。このような制御が正確に行われることで葉の表側の細胞分化が起こり、扁平で左右相称的な葉が形成される。 本年度は、AS1とAS2がARF3のコード領域のメチル化にも関わること、このメチル化レベルと葉の形態、およびARF3の発現に明らかな相関があることを示した(Iwasaki et al., Development 2013)。葉の発生後期には、AS1とAS2が発現していなくても、このようなエピジェネティックな制御機構が働くことにより、ARF3の発現が抑制され、扁平で左右相称的な葉の形成がなされると考えられた。この結果は、Gene body methylationが遺伝子発現抑制、さらには形態形成に関わっていることを明らかにした初めての例である。さらに、このような葉の発生初期には、DNA複製とその後のクロマチン構造の複製が重要である事を示唆する結果を得た。葉の初期発生過程に関わる因子とその分子機能を明らかにする事は、全能性を保持した分化スイッチのしくみの解明において重要である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1、 すでに我々は、as1又は、as2変異体に9-ヒドロキシカンプトテシンを加えた時に、葉の表側の細胞分化が強く阻害されて棒状の葉を形成することを示している。そこで本年度は、ヒドロキシカンプトテシンの作用機作との標的分子(タンパク質)であるトポイソメラーゼIの葉の分化における機能を解明するために、DNA損傷試薬、細胞周期特異的阻害試薬をas1又は、as2変異体に投与し、葉の形態を解析した。その結果、DNA損傷試薬を加えた場合、S期特異的阻害剤を加えたときには棒状の葉を形成したのに対して、M期特異的阻害試薬を加えても、棒状の葉を形成することはなかった。このことは、このような葉の発生初期分化には、DNA複製(クロマチン構造の複製)が重要である事を示唆している。(論文準備中) 2、 ARF3のエピジェネティックな抑制の仕組みについて明らかにするために、様々な条件下におけるARF3遺伝子座の領域のDNAのメチル化レベルを解析した。その結果、メチル化レベルと葉の形態、およびARF3の発現に明らかな相関があることがわかった(Iwasaki et al., Development 2013)。 3、 我々の結果は、ARF3が分化スイッチの鍵因子であることを示唆している。そこで、ARF3の下流因子を同定するために、マイクロアレイ解析を行った。その結果、ARF3がCDK inhibitor(KRPs)とIPT(サイトカイニン合成酵素)を正に制御していることが明らかになった(Takahashi et al., Plant Cell Physiol.2013)。 以上のように、研究は、ほぼ予定通り順調に進展し、成果は、論文として公表した。
|
今後の研究の推進方策 |
1、我々は、24年度に、分化スイッチの鍵因子であると考えられるARF3の下流遺伝子候補として、CDK inhibitor(KRPs)とIPT(サイトカイニン合成酵素)を同定した。そこで、25年度は、葉の初期発生分化における、ARF3によるCDK inhibitor(KRPs)とIPT(サイトカイニン合成酵素)の制御の役割を明らかにするために以下の(1), (2), (3)の実験を行う。 (1) DNA損傷試薬、DNA複製阻害剤、細胞周期特異的阻害試薬の葉の発生分化における影響について引き続き解析する。特に、DNA損傷試薬、DNA複製阻害剤を加えた時のCDK inhibitor(KRPs)とIPT(サイトカイニン合成酵素)等の発現の変化について解析する。 (2) シロピヌナズナのトポイソメラーゼ遺伝子、DNA複製関連遺伝子、クロマチン再構成因子遺伝子の変異体とas1, as2との二重変異体の解析を行う。特に、これらの二重変異体のCDK inhibitor(KRPs)とIPT(サイトカイニン合成酵素)等の発現の変化について解析する。また、二重変異体におけるARF3遺伝子のDNAメチル化を解析する。 (3) 二重変異体、及びケミカル投与植物のDNAマイクロアレイと知識ベースFuzzyARTによるクラスタリング解析を行う。複数のクラスタリング解析を統合したメタ解析を行い、分化スイッチの鍵因子であると考えられるARF3の下流遺伝子を絞り込む。 2、エピジェネティックな抑制と、AS1-AS2が局在する核小体との関わりについて明らかにする。そのために、DNA損傷試薬、DNA複製阻害剤を加えた時の、細胞分裂期の細胞核や核小体の動態を調べる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
物品費としてDNAとRNAの解析に必要な分子生物学試薬,プラスチック器具を購入する(70万円)。平成24年度は実験が効率よく進んだ結果、物品費の支出が予定より小額となった。繰り越し分のうち10万円分を25 年度に物品費として使用する。国内旅費(20万円)を使用予定である(日本分子生物学会、日本植物学会)。植物の育成(シロイヌナズナの生育、交配実験、変異体分離確認実験)のための実験補助として謝金(約30万円)を使用予定である。英文校閲と論文投稿料(40万円)を使用予定である。平成24年度の実験が効率よく進んだ結果、参加予定していた学会年会では、本研究の成果を発表しなかったが、論文投稿の準備ができたので、繰り越し分のうち30万円分を25 年度に英文校閲と論文投稿料として使用予定である。
|