研究課題
植物の発生分化では全能性を保持した分化スイッチがおこると考えられている。分化スイッチにおいては、植物に特徴的なエピジェネティックな抑制制御が働いている可能性があるが、その仕組みは明らかになっていない。葉は茎頂メリステムから分化する地上部の主要な器官であり、表裏(向背軸性)のある左右相称的で扁平な形態的特徴をもつ。葉の発生初期には、裏側的性質をもつ棒状の形態をしているが、発生の進行に伴い、表側の細胞が分化すると、表裏の境界面で 細胞分裂が誘発され側方方向への葉の拡大が起こり扁平になると考えられている。これまで葉の分化に関わる遺伝子が多数同定されたものの、分化スイッチの鍵となる遺伝子は明確にはなっていなかった。我々は、シロイヌナズナの ASYMMETRIC LEAVES1(AS1)とAS2が葉の表側分化の鍵遺伝子であり、AUXIN RESPONSE FACTOR3(ARF3)/ETTIN(ETT)を直接制御する事を明らかにした(Iwasaki et al., Development 2013)。さらに、複数のマイクロアレイ解析により、ARF3が細胞分裂に関わるCDKinhibitorとサイトカイニン合成に関わる因子を制御することを明らかにした(Takahashi et al., PCP 2013)。25年度は、第一に、CDKインヒビターであるKRP5がARF3の下流で働くこと、AS1-AS2がARF3を通してKRP5を抑制することが、表側細胞の分化と側方方向の細胞増殖において重要であることを明らかにした。第二に、DNAメチル化阻害剤を用いた研究から、AS1-AS2がARF3のexon6のCG配列のメチル化に関わること、この領域のメチル化レベルは、葉の表側分化と側方方向の細胞増殖と相関があることを示した。このことは、ARF3が分化スイッチの鍵因子であることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
(1) 低分子化合物である9―ヒドロキシカンプトテシンをas2変異体に投与し、マイクロアレイを行い、我々が開発したクラスタリング法であるKB-FuzzyAR法を用いて解析しすることにより、AS1-AS2の下流因子候補としてCDKinhibitorであるKRP5を抽出した。さらに、遺伝学的解析により、AS1-AS2がARF3を介してKRP5を制御していることを明らかにした(論文投稿準備中)。サイトカイニン合成に関わる因子(IPT3)の制御系については解析中である。当初の目的である、AS1-AS2によって直接制御されているARF3 の下流因子候補として細胞周期制御因子であるKRP5を抽出することができ、さらに、遺伝学的にも、AS1-AS2の下流であることを証明した。このことは、ARF3が分化スイッチの鍵因子である可能性を支持している。(2) 2種の異なるDNAメチル化阻害剤を用いて解析した結果、ARF3のexon6のCG配列のメチル化と、葉の表側分化と側方方向の細胞増殖との間に相関があることを示した。ARF3のexon6の領域のメチル化レベルは、葉の表側分化と側方方向の細胞増殖に関わると考えられた。これらの結果を含めて、論文として公表することができた(Iwasaki et al., Development 2013)。さらに、他のコード領域についても解析を進行中であり、さらに新しい結果が期待できる。
(1) これまでに、AS1-AS2が、ARF3を介して細胞分裂に関わるCDKinhibitor(KRP5)とサイトカイニン合成に関わる因子(IPT3)を制御することを明らかにした。今後、サイトカイニン合成系がAS1-AS2が関わる葉の形成における細胞分化と細胞増殖のどのような機能に関与しているのかについてもipt3変異体を用いた遺伝学的実験とIPT3の発現解析により明らかにする。(2) ARF3のコード領域のDNAメチル化とAS1-AS2が関わる葉の形成における細胞分化と細胞増殖との関連を明らかにするために、9―ヒドロキシカンプトテシンをas2変異体に投与した場合のARF3遺伝子座のDNAメチル化レベルを解析する。また、このようなDNAメチル化レベルの変化は、AS1-AS2の直接的制御を受けているARF3遺伝子座に特異的な現象であるかどうかについてゲノムワイドな解析を行うことにより明らかにする。以上の実験を通して、最終年度は、ARF3が分化スイッチの鍵因子であることを明らかにするとともに、分化スイッチにおける植物に特徴的なエピジェネティックな抑制制御機構を明らかにする。
DNAメチル化を解析する実験を行う予定であったが、研究の遅れにより出来なかったため、消耗品(試薬)を繰越すこととなった。そこで26年度はDNAメチル化を解析する実験を行い、そのためのクローニングとプラスミド精製試薬等を購入する。
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