植物の発生分化過程では全能性を保持した分化スイッチが起ると考えられている。このような過程では、植物に特徴的なエピジェネティックな抑制制御が働いている可能性があるが、その仕組みは明らかになっていない。葉は茎頂メリステムから分化する地上部の主要な器官であり、表裏のある左右相称で扁平な形態的特徴をもつ。葉の発生初期には、裏側的性質をもつ棒状の形態をしているが、発生の進行に伴い、表側の細胞が分化すると、側方方向への葉の細胞増殖がおこり扁平になると考えられている。本研究の目的は、葉の分化をモデルとして、植物の分化に特徴的なエピジェネティックな抑制の仕組みを解明する事である。我々は、シロイヌナズナの葉の表側分化に関わる因子であるAS1とAS2に着目して研究を進めた結果、AS1-AS2複合体は裏側化因子ARF3を直接抑制制御すること、ARF3とARF4をsmall RNAを介して間接的にも制御する二重の制御を明らかにした。トポイソメラーゼIαやクロマチン再構成因子等がAS1-AS2と共に ARF3 の発現抑制に関わること、AS1とAS2 は、ARF3 のgene body DNAメチル化レベルの維持に関わることを示唆した。26年度は、トポイソメラーゼIαの阻害剤カンプトテシンを投与したシロイヌナズナを用いて、新奇なアルゴリズム(KB-FuzzyART)によるマイクロアレイ解析を行い、ARF3の下流因子候補を抽出し、遺伝学的解析を行い、細部周期進行制御に関わるKRP5(CDKインヒビター)とサイトカイニン合成に関わる因子(IPT3)を同定した。さらに、カンプトテシンを投与した場合のARF3遺伝子座のDNAメチル化レベルの解析を進行中である。以上の結果から、AS1-AS2はARF3のエピジェネティックな制御に関わり、ARF3の制御を介して、KRP5とIPT3を抑制し、葉の表側分化と側方方向の細胞増殖を制御している可能性が考えられる。
|