研究概要 |
植物ホルモンのアブシジン酸(ABA)は、植物体内の維管束領域で合成され、表皮にある孔辺細胞に作用して気孔閉鎖を起こします。しかし、細胞間や組織間におけるABAの伝達機構やその輸送因子はほとんど分かっていませんでした。私たちはABCトランスポーターに分類されるAtABCG25が維管束におけるABA輸送体の一つであることを報告しました。本研究では、ABA輸送に関わる因子の探索と機能解析、さらに維管束と孔辺細胞の間でのABA輸送機構の解明を目指します。昨年度は、課題1「維管束あるいは孔辺細胞において働く輸送因子ファミリー遺伝子の探索と解析」に関して研究を進め、AtABCG25のファミリー遺伝子であるAtABCG9, AtABCG14, AtABCG21について遺伝子発現様式と細胞内局在性を解析しました。 本年度は、課題2「維管束においてABA合成酵素やABA輸送因子の発現細胞の特定」について研究を進めました。ABA合成酵素であるABA2とAAO3の2つの遺伝子に関して、プロモーター領域にレポーターとして核局在型GFPを融合することで、発現細胞の特定を試みました。植物体の様々な組織や器官における蛍光観察実験の結果、維管束組織の中の師管伴細胞で比較的強く発現していることを見出しました。さらに、ABA輸送因子AtABCG25について同様の解析を行ったところ、やはり同じ細胞種において遺伝子発現が観察されました。次に、この細胞種においてABA合成酵素NCED3を強制発現する形質転換植物体を作製したところ、気孔閉鎖が有意に促進され、植物体からの水分蒸散が抑えられる傾向が観られました。以上の結果は、維管束細胞にて誘導したABA合成が、維管束から離れた表皮にある孔辺細胞へ影響を与えたことを示しており、組織間におけるABAシグナル伝達を間接的に示唆していると考えられます。
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