脊椎動物の脳機能は、興奮性(グルタミン作動性)の結合と、抑制性(GABA作動性)の結合を主要な構成要素として形成されると考えられるが、これに加えてモノアミンや、ペプチドによる神経修飾を受けることによって初めて奇跡に近い高度な機能を発揮している。モノアミンやペプチドによる神経修飾は特異的な受容体を介して行われ、このなかではGタンパク質共役型受容体(GPCR)が非常に重要な地位を占める。すなわち、GPCRのシグナル伝達機構を明らかにすることは、脳機能の本質を解明することにほかならない。本研究において、代表者は、メダカをモデル生物として、重要な脳内ペプチドであるニューロペプチドFF(NPFF)およびRFアミド関連ペプチド(RFRP)に対する受容体をクローニングし、そのシグナル伝達経路について詳細に解析した。その結果、これらの受容体がNPFFおよびRFRPにより濃度に応じて二相性に反応(cAMP応答配列の活性化もしくは抑制)を示すことを発見した。ここから、これらの受容体は、通常のペプチド濃度ではニューロンに抑制的な反応をひきおこすが、ペプチドが高濃度に達すると、一過的に興奮性の反応をひきおこし、好ましくない、危険な抑制過剰を回避していると推論した。すなわち単一のリガンドと受容体のセットのみによって、生物にとってきわめて安全性の高い制御が行われていると考えられた。またNPFF受容体およびRFRP受容体の脳内分布も解析し、一部で自己・傍分泌的に作用する可能性が見いだされた。これらの知見から、脳内ペプチドによる神経修飾機能に関して、一般性の高い、重要な概念を示すことができたと考えられる。
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