研究課題
基盤研究(C)
平成24年度は、カクレクマノミの性分化において、脳の性分化と生殖腺の性分化ではそれぞれ異なる機構が存在するのでは、との仮説を立て、検証を行った。まず、未成熟カクレクマノミへコルチゾル、エストラジオールを各々投与し、脳と生殖腺のアロマターゼ遺伝子の転写活性を評価した。その結果、コルチゾルとエストラジオール投与により、生殖腺においてはアロマターゼ遺伝子の転写活性が上昇したが、脳においては上昇がみられなかった。現在確認のために追試験を実施中である。また、攻撃性はコルチゾル投与によりやや上昇したが、エストラジオール投与によって大きく上昇した。よって、成熟メス(優位個体)の高い攻撃性にはエストラジオールが関与していることが示唆された。現在、魚類で攻撃性に関与しているといわれるアルギニンバソトシンとエストラジオールとの関係についても検証を開始している。カクレクマノミの性分化に関与するとされる候補遺伝子、11βHSD遺伝子とグルココルチコイドレセプター遺伝子について、全長配列決定を試みた。その結果、11βHSD遺伝子については5’側に残り1000bp、グルココルチコイドレセプター遺伝子については同じく5’側に残り1000bp程度を除いて、ほぼ配列を決定することができた。すでに全長の決定がなされている2種のアロマターゼ遺伝子と、今回決定がなされた上記2つの遺伝子の部分配列を用いてプライマーを作製し、リアルタイムPCRを用いて、エストラジオール投与によりメスへの性分化を誘導した個体の脳と生殖腺の遺伝子発現量を解析した。その結果、メスへ性分化を開始した個体において、11βHSD遺伝子の発現量が有意に低下することを明らかにした。
3: やや遅れている
予定では24年度中に性分化の時系列的変化の検証に着手する予定であったが、人手不足のため、実験開始を見送った。今年度は人手の確保が見込まれるため、開始する予定である。
平成24年度の研究において、アロマターゼ遺伝子には臓器特異的な転写活性メカニズムがある可能性が示されたが、この結果については追試や別の実験系を用いた再検証が必要である。全長が得られていない遺伝子については配列決定が必要である。各種薬物を投与することによって得られた各遺伝子の転写活性の変化については、自然な状態、すなわち社会環境を操作することで性分化を誘導させた個体の時系列的変化に当てはめ、改めて考察を行うことが必要である。
実験動物の購入や飼育設備、餌などの購入に充てる。また、遺伝子の配列決定や発現量解析、血中ホルモン濃度測定用の試薬の購入にも用いる。可能であれば国内学会で2回程度の発表を考えている。
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DOI10.1007/s10211-012-0142-0
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