ショウジョウバエ雌の中枢神経系において、dsx発現ニューロン群にdTRPA1を発現させ、強制的にニューロンを活性化させると、雌の生殖行動である産卵管突きだし反応および産卵が誘導されることが明らかになった。本年度、dsx発現ニューロン群の活性化により引き起こされる雌の生殖行動を詳細に観察したところ、誘導される行動には2つのタイプが存在することがわかった。一つは、交尾型産卵管伸展反応であり、もう一つは産卵型産卵管伸展反応である。この産卵型産卵管伸展反応には産卵が伴うこと明らかになった。そこで、dsx-Gal4系統にMARCM法を適用し、この2つの反応を誘導するdsx発現ニューロンの同定を再度検討した結果、性的二型を示すpC2lニューロンが雌の交尾型産卵管伸展を制御しており、雌特異的に存在するpMN2ニューロンが産卵型産卵管伸展および産卵を制御していることが明らかになった。また、雄に存在するpC2l相同ニューロンの役割を明らかにするために、MARCM法により一部のdsx発現ニューロンを活性化させ、雄で誘導される行動を調査した。その結果、雄のpC2lニューロンも交尾行動の誘導に関与することが示され、雌雄の性的二型ニューロンがそれぞれの交尾行動の一端を担っていることが明らかになった。 雌生殖行動を制御する神経回路網の動作機構を明らかにするために、ドーパミン作動性ニューロン群に注目した。ドーパミン作動性ニューロン群にdTRPA1を発現させ活性化させると、雌の産卵姿勢行動が誘発されることを見いだした。ドーパミン作動性ニューロンをMARCM法により選択的にGFP標識し、投射パターンから同定した。その結果、dsx発現ニューロン自身はドーパミンを発現していないことが確認された。ドーパミン作動性ニューロンのどのニューロンが雌の生殖行動を誘発しているのかについては、今後の課題として残された。
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