研究課題/領域番号 |
24570082
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小金澤 雅之 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (10302085)
|
キーワード | ショウジョウバエ / 求愛行動 / fruitless / doublesex |
研究概要 |
1: 強制活性化法を用いた求愛歌生成に関わる神経細胞群の同定 (A) 昨年度までにdsx発現ニューロン全体に温度感受性チャンネルdTrpA1を発現し高温条件下で強制活性化することによってpulse songとsine songから構成される正常な音響パターンを持つ求愛歌が生成されることを明らかとした。本年度はMARCM法を用いてごく少数のdsx発現ニューロンにdTrpA1を発現し強制活性化する機能的モザイク解析を行った。その結果、脳内のpC1, pC2l、胸腹部神経節内のTN1, prAと名付けられたニューロン群をそれぞれ強制活性化することにより、羽振動による音響生成がなされることが明らかとなった。興味深いことに、上記ニューロン群を強制活性化した際に生成される音響パターンはそれぞれのニューロン群で異なっていた。例えばpC1ニューロン群はpulse songを主に生成するのに対して、TN1は連続したsine songのみを生成した。これらのdsx発現ニューロン群が協調して働くことにより正常な求愛歌が生成されると示唆される。(B) 求愛歌生成に関係するニューロンを探索する中で、あるfru発現ニューロン群を強制活性化すると求愛歌とは異なる音響パターンを生み出すことを見出した。この誘発される音響は攻撃行動時に発せられる音に類似していた。さらにこのニューロン群の強制活性化は求愛行動を強く抑制することも明らかとなった。これらのニューロンが求愛行動と攻撃行動を切り替えるスイッチとして機能していることが示唆された。 2: 単離脳標本を用いた求愛歌生成神経回路の生理学的解析 昨年度開始したパッチクランプ法を用いたニューロンからの電気生理学的応答記録システムの構築を続け、中枢ニューロンからの電気生理学的応答記録に備えて、極めて微小な胚筋肉からのパッチクランプ記録を可能とした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
機能的モザイク法を用いる事によって求愛歌生成に関わる4種ののdsx発現ニューロンを同定することができた。さらにこれらのニューロン群の強制活性化に伴う音響パターン生成はそれぞれのニューロン群で異なっていることも明らかとした。これらは計画に沿ったもので順調に成果をあげている。さらに強制活性化実験では、求愛行動と攻撃行動を切り替えている可能性のあるニューロン群を発見した。これらは求愛歌生成のさらに上位のシステム同定の可能性を示唆し、当初の計画以上の成果であったと考えている。 一方、単離脳標本を用いた生理学的解析については、昨年度より始めたパッチクランプ法を用いた記録システムの構築を続け、中枢ニューロンからの記録の前段階として胚の筋肉からの電気生理学的応答記録を可能とした。ショウジョウバエの神経筋接合部の解析は主に3齢幼虫を用いた実験が行われているが、胚の筋肉は極めて小さいため研究自体も多くない。これを実現したことは中枢ニューロンからの応答記録にむけて大きな進展であったと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
強制活性化法を用いた求愛歌生成ニューロン群の解析をさらに続けるにあたって、最近開発された赤色光で活性化されるチャンネルロドプシンReaChR2を用いた実験も行う。温度制御に比べて光制御は時間解像度が高いため、求愛歌生成という短い時間スケールの現象解析にはより適しているからである。さらにReaChR2はイメージングとの併用も可能である。TrpA1を用いて強制活性化をしつつCa2+イメージングを行う際には、温度変化に伴う標本の移動が大きな問題点となっていた。従来ChR2はCa2+イメージングに用いる蛍光タンパク質(GCaMP等)の励起光とその活性化光波長が近接していたため併用が困難であったが、ReaChR2は赤色光で活性化が可能であるため強制活性化とイメージングを同時に行う事が可能であるという強力な利点がある。今後は、ReaChR2、Ca2+イメージング及びパッチクランプ法を用いた単一ニューロンからの電気生理学的応答記録を組み合わせることにより、詳細な中枢神経回路の機能的解析を行う。また、本年度発見した求愛と攻撃を切り替えている可能性のあるニューロン群についてはより詳細な解析を行い、求愛歌生成の上位システムの回路構成について明らかにしていく予定である。
|