研究課題/領域番号 |
24570084
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
木下 充代 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 助教 (80381664)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 神経行動学 / 視覚 / 嗅覚 / 雌雄差 |
研究概要 |
本研究は、異種感覚の統合機構を明らかにする研究の一貫として位置づけられる。特に、視覚と嗅覚情報の統合における脳の性差に注目している。具体的には、求蜜行動におけるアゲハの生得的色嗜好性における植物由来の匂い物質の影響を対象に、この行動の神経基盤を明らかにするため神経行動学的手法にのっとった研究基盤を確立したいと考えている。 平成24年度は、主に予備実験で得られていた行動実権結果再検証から始め、匂いと色嗜好性の関係をより詳しく行動学的に記載することができた。求蜜未経験のアゲハに青・緑・黄・赤の色円板を見せると、最も多くの個体が青円板の上で最初にえさを探す。この生得的な色嗜好性には、雌雄差がない。次に、柑橘類の樹木・樹木と花の匂い(ネロリ)・ネロリのみの系4種類の匂いを、色紙と同時に提示して色嗜好性を測定したところ、色嗜好性と匂いの間に面白い関係があることがわかった。 柑橘類の樹木があると、メスでのみ緑に降りてえさを探す個体が増えた。ところがネロリでは、メスでは黄色や赤を選ぶ個体が有意に増えたのに対して、オスでは黄色を選ぶ個体が有意に増えた。さらに面白いことに、ハイビスカスの鉢植えでは、同様の変化は起こらなかった。触覚受容を阻害して色嗜好性を測定すると、オスメスともに青を好んだ。以上の観察結果は、以下び3つのことを示している。①色の嗜好性は、匂いの有無と種類に影響を受ける。②匂いの影響の受け方が、雌雄で異なる。③匂いの情報の入力部位は触覚であり、今回発見した現象は嗅覚の雌雄差によるものである可能性が考えられた。これらのことは、複合感覚の統合を明らかにする神経科学的研究を可能にする行動が捕まったというだけでなく、訪花性昆虫と植物の関係を考えると生態学的にも大きな意味のある成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、複合感覚系の神経基盤を明らかにする神経行動学手法を採用している。神経行動学では、行動実験系の確立が最も重要なステップで、研究対象になり得る行動を捕まえることができると、神経系の生理学的研究を進める意義ができたことになる。本年度の最大の進展は、実験系が確立されたこと、その実験系によって一定以上の結果を得られたことである。 私がとらえた行動は、2つの現象を含む点で非常に特色のあるものになっている。ひとつ目は、異なる感覚の統合によってひとつの行動の判断が変化する点である。これまでの多くの研究は、ひとつの感覚情報によって誘発される行動を対象とするものがほとんどであった。私の研究は、感覚がどのように統合されるのかを調べるよい系になり得る。匂いの種類によって、色の嗜好性の変化に違いがでることも非常に興味深い。ふたつめは、行動に明確な雌雄差が見つかった点である。普通行動の雌雄差は、配偶行動等で最も顕著に見られる。しかし本研究の結果は、雌雄に共通する行動のひとつである摂食行動においても、雌雄で下す判断が異なることを示している。この点も非常に新しい発見である。 得られた成果は、今後の多面的な研究方向を示している点で、予想を上回る成果をあげたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
昆虫は、花の匂いや植物の葉から出る匂い成分の微量な成分とその構成比等を正確に嗅ぎ分けていることが知られている。匂いに含まれるどの成分が、生得的色嗜好性を変化させるのだろうか?この問いに答えるため、まずそれぞれの匂いに含まれる成分を、ガスククロマトグラフィーで分析する。続いて人工的に匂いを作成して、色嗜好性の変容に重要な役割を果たしている特定の成分を行動学的に同定することを試みる。 また25年度には、神経基盤を神経生理学的実験によって明らかにする研究を始める。まずは、視覚と嗅覚情報の情報処理に最初に関わる部分に注目する。視覚系は、複眼の構成を雌雄で比較する。つぎに、嗅覚系では触覚や第一次触覚中枢における性差の観察する。つづいて、アゲハが受容できる匂い物質を触角電図によって明らかにしたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度は、実験に用いる動物飼育用品、神経科学的実験(組織科学・生理学)とその解析に必用な備品・消耗品に大部分を当てる予定である。旅費の支出は以下2つを予定している。国内における成果発表として動物学会および応用動物昆虫学会、ドイツにおいて研究分野の情報収集を行う。
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