本研究は、生得的な色嗜好性が、匂いによって変化するという発見を機に、視覚と嗅覚の統合に関わる神経メカニズムを神経行動学的に解明する研究基盤づくりを行った。初年度と2年目は、行動学的実験によって、色嗜好性における匂いの影響と雌雄差を詳細に調べた。 最終年度は、アゲハが野外で赤系の花にいくと報告されている点に注目した。なぜならば、優れた色学習能力を持つアゲハが、野外で赤系の花をよく訪問するのは、羽化後最初に求蜜する花が赤系であると考えたからである。メスは、花の匂いによって赤に誘引される個体が多くなる。一方、オスでは好きな色に対する匂いの影響が限定的だった。そこで、オスが赤系の色に誘引される要因を多方面から探った。その結果、生得的色嗜好性の測定するとき、背景を黒ではなく緑にすると、雌雄ともに赤紫、赤といった赤系の色を選択した。この背景の色による色選択性の変化は、色対比現象と呼ばれる。多くの花は葉を背景に咲く。よって、アゲハが赤系の花を好むのは、緑の背景による色対比現象も一定の関与をしていると考えた。 さらに、視覚と嗅覚の情報の統合を、神経レベルで明らかにするため、キノコ体へ入力する神経を対象に細胞内記録法を確立した。視覚中枢からキノコ体へ入力する神経群をターゲットに、電極をキノコ体周辺に射入し、光に応答する単一細胞に色素を注入する実験系を確立した。その結果、視覚中枢からキノコ体へ入力する3つの神経束のうち2種類について、単一神経の形態を明らかにできた。
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