研究課題/領域番号 |
24570085
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
橘木 修志 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (70324746)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 動物生理化学 / 視細胞 / 錐体 / 桿体 / 光応答 |
研究概要 |
本研究では、錐体・桿体の光受容部(外節)でのi)脂質組成の違い、ii)発現しているタンパク質の違い、の2つの違いに着目し、これらの違いが錐体・桿体の光応答特性の違いをもたらすのかどうか明らかにすることを目的としている。 着目している2つの項目のうち、前者(脂質組成の違い)に着目した理由は、この違いが視細胞における視物質のGタンパク質活性化の効率に影響を及ぼし、最終的に錐体・桿体の光応答の感受性の違いの原因となりうるためである。そこで、錐体・桿体の外節における脂質組成や脂肪酸組成を調べた所、錐体と桿体とでは違いがあることを示唆するデータを得た。しかし、興味深いことに、試料をサンプリングした季節に由来すると思われるデータの大きな変動が見られた。したがって、どの程度錐体と桿体で脂質組成に違いがあるのかを確定するためにはさらに検討が必要である。 着目している2つの項目のうち、後者(発現しているタンパク質の違い)に着目した理由は、それぞれの細胞に独自に発現している未知の蛋白質が光応答特性に影響を及ぼしている可能性があるためである。そこで、精製した錐体、桿体外節膜試料を二次元電気泳動にかけ、それぞれの試料に特異的に現れる泳動ゲル上のスポットを複数個同定した。さらに、錐体外節膜に特異的なスポットに含まれるタンパク質をMSにより同定する試みを行い、1つのスポットについてはvisininと呼ばれる錐体特異的なタンパク質であることがわかった。したがって、本研究の実験戦略により錐体・桿体特異的なタンパク質を見いだせることは確認できた。しかしながら、他のスポットについてはMSによる同定に失敗した。この失敗は、試料の量・純度に起因するものではなく、MSのスペクトルからタンパク質を同定する際に用いたデータベースに起因すると考えている。今後、この点についての改良を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の計画では、平成24年度において、(計画1)錐体・桿体の外節部細胞膜の脂質組成、脂肪酸組成の解析を年数回行うこと、(計画2)錐体・桿体の外節の新規精製法の確立を行うこと、(計画3)錐体、桿体いずれかの外節にのみ発現しているタンパク質の探索をおこなうこと、を予定していた。 (計画1)錐体・桿体の外節部細胞膜の脂質組成、脂肪酸組成の解析については、この解析を行う上で重要な前提となる知見(Tachibanaki et al, JBC, 2012)を学術誌に発表することができた他、外節部細胞膜の脂質組成、脂肪酸組成の解析自体も順調に解析が進んでいる。 (計画2)錐体・桿体の外節の新規精製法の確立について、本研究がスタートした時点では、錐体と桿体の外節部膜画分は精製する方法が確立していたが、水溶性画分を含む外節部全体を調製する方法を別途検討する計画であった。これは、(計画3)におけるタンパク質同定において、膜結合性タンパク質のみならず水溶性タンパク質についても検討を行うためである。さまざまな方法を検討したが、現段階では成功に至っていない。しかしながら、内節部も含めた水溶性画分を精製錐体・桿体から精製し、解析することでほぼ同様の解析ができることが最近になってわかったことから、新規精製法の確立はかならずしも必要でない、と判断した。 (計画3)錐体、桿体いずれかの外節にのみ発現しているタンパク質の探索について、すでに、錐体・桿体の外節膜特異的に存在するタンパク質に由来すると思われる二次元ゲル電気泳動ゲル上のスポットをそれぞれ10個前後同定している。今後、MSを用いてこれらのスポットに含まれるタンパク質の同定を進める。
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今後の研究の推進方策 |
以下、2つの計画について述べる。 (今後の計画1)今脂質組成の違いが視物質のGタンパク質活性化に与える影響の評価:錐体・桿体の外節における脂質組成や脂肪酸組成を調べた所、錐体と桿体とでは組成に違いがあることを示唆するデータを得た。この違いが視物質のGタンパク質活性化の効率に影響を及ぼすかどうかを検討するため、任意の視物質、Gタンパク質、脂質からなる再構成系を用いた測定手法を確立する。現在、錐体・桿体型の視物質、および桿体型のGタンパク質は調製できるので、これらの視物質・Gタンパク質を特定の組成の脂質二重層膜中に再構成する手法について検討中である。再構成系として主に2つの系を用いることを考えている。1つはリポソーム系であり、もうひとつはナノディスクと呼ばれる系である。ナノディスク系では、リポソーム系でアッセイする際に問題となるinside-out等の問題が解消できると期待される。 (今後の計画2)錐体・桿体いずれかの外節のみに存在するタンパク質の評価: これまでに、精製した錐体、桿体外節膜試料のどちらか片方にしか存在しないタンパク質を二次元電気泳動ゲル上のスポットとして複数個見出したが、スポットに含まれるタンパク質をMSで同定することには失敗した。この理由は、MSのスペクトルからタンパク質を同定する際に用いるデータベースが実験動物であるコイ由来のものでなく、近縁種であるゼブラフィッシュのものであったことに起因すると考えている。ゼブラフィッシュのデータを使ったのは、コイのゲノムがいまだに公開されていないためである。この点を改良するため、現在、次世代シーケンサーを使ってコイ視細胞のcDNAライブラリを解析し、コイ網膜タンパク質のデータベースを構築中である。順調に推移すれば本年度半ばに完成する予定なので、その後、得られたデータを用いてタンパク質同定を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究を行う上で、コイの網膜から精製する錐体、桿体試料は必須である。脂質の解析を1回行うためには、最低で100匹程度のコイが必要となり、また、タンパク質の解析を行うためには最低20匹程度のコイが必要となる。それぞれについて複数回の実験を行うことを考慮して、年間1000匹程度のコイの使用を考えている。現在、コイの価格は1匹あたり約1000円程度であることから、年間でコイの購入費用が100万円になる予定である。また、生化学実験に用いる試薬・ガラス器具等の消耗品費を60万円と見込んでいる。さらに、研究成果を発表する費用として、10万円を見込んでおり、総計で170万円となる計画である。 なお、実験に必要な装置等はすでに保有しているので、購入予定はない。
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