本研究の目的は、錐体・桿体の光受容部(外節)での i)脂質組成の違い、ii)発現しているタンパク質の違い、の2つの違いに注目し、これらの違いが錐体・桿体の光応答特性の違いの原因となっているか明らかにすることである。 脂質組成の違いは、視物質によるGタンパク質活性化の効率に影響を及ぼし、最終的に錐体・桿体の光応答の感受性の違いの原因となると考えられる。今年度、錐体・桿体の外節における脂質組成について、コレステロール量が錐体において桿体より10倍高いこと、脂肪酸組成については特定の不飽和脂肪酸(DHA)の割合が桿体では錐体よりも約20%高いことを明らかにした。この違いが応答に及ぼす影響の評価は現在行っている。 発現しているタンパク質の違いについては、当初計画していた二次元電気泳動法では網羅的な解析が難しかったため、より多くのタンパク質を検出することができるゲルショットガン解析に方法を変えて実験を行った。また、ショットガン解析のデータを効率よく解析するために、コイ網膜のmRNAライブラリも構築しなおした。これらの改善により、高効率で網羅的な解析ができるようになった。解析の結果、錐体、桿体の外節にそれぞれ独自に局在していると思われるタンパク質が見出された。現在、これらのタンパク質について、ゼブラフィッシュを用いてKO個体を作成し、細胞の光応答に影響を及ぼすタンパク質かどうかを検討中である。 さらに、錐体と桿体において視物質が再生されるときに生じる脱リン酸化反応が、視物質がどのような状態の時にどのような速度で生じるのか検討した。その結果、脱リン酸化は、桿体より錐体で速く生じること、また、両方の細胞において、視物質の状態によらずコンスタントな速度で生じていることがわかった。これらの結果は、錐体が明るいところで応答の飽和が生じずに働き続けることができる分子基盤であると考えられる。
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