研究課題
今年度はカナヘビ及びヤツメウナギの室傍器官への光周期の影響について調べた。それぞれの研究成果を下記に示す。カナヘビ:室傍器官-下垂体系が存在することを既に報告しているカナヘビにおいては、これまで光周性に関する研究はなかった。そこで、本年度はカナヘビを短日・長日条件で飼育し、生殖腺指数及び室傍器官の変化について調べた。さらに性別による違いについても検討した。光周期の生殖腺への明らかな影響は見られなかったが、メスにおいては短日条件では体重と生殖腺重量に相関は見られなかったが、長日条件では体重と生殖腺重量との間に明瞭ではないが、正の相関を示す傾向が見られた。室傍器官についても光周期による変化は見られなかった。ヤツメウナギ:これまでの研究よりカワヤツメ成体とスナヤツメ幼生・成体ではウズラやカナヘビに見られるGnIH(ゴナドトロピン抑制ホルモン)ニューロンが関与する室傍器官-下垂体系が存在することが示唆された。そこで、光周期がヤツメウナギの室傍器官に影響を及ぼすのかどうか、さらに成長に伴ってどのように変化するのかを調べた。ヤツメウナギは3~4年間の幼生期を経て、変態し、成体となる。本研究では幼生及び成体の入手が可能なスナヤツメを用いた。また、スナヤツメは変態後、すぐに生殖腺が発達する。つまり、変態によって生殖腺の発達も促される。その結果、室傍器官は光周期によって有意な変化は見られなかったが、脳に対する室傍器官が占める割合は成長に伴い小さくなっていった。つまり、幼生、特に小型幼生では室傍器官の割合は成体に比べて2倍程度大きかった。さらにGnIHニューロンに関しても同様な実験を行った。その結果、GnIHニューロンの割合は幼生では短日・長日条件でも個体サイズでも変化が見られなかったが、成体において、有意な差ではなかったが、長日条件において、増大、短日条件において減少する傾向が見られた。
2: おおむね順調に進展している
カナヘビにおいては明瞭な光周性を示す証拠は得られていない。この理由としては実験動物の条件によることが一つの要因である可能性がある。本研究では当初、業者からの安定した入手を予定していたが、予定していた動物の入手が困難となり、初夏から夏にかけて野外で自分たちが採集した個体を用いた。この時期は既に繁殖期に入っており、飼育途中で産卵をした個体も多く見られた。飼育開始時において、それぞれの個体がどの程度生殖腺が発達しているかについて調べることができないために光周期による影響が見られなかった可能性が考えられる。室傍器官へ光周期の影響が見られなかった点についても同様な可能性が考えられる。カナヘビの光周性に関しては予想していいた結果は得られなかった。スナヤツメに関しては、短日・長日条件での飼育環境を今年度初めて整え、光周期による影響を調べた。今年度では飼育可能な個体数が限られていることもあり、短日・長日条件での飼育では有意な差は見られなかったが、変態に伴う室傍器官やGnIHニューロンの割合などのいくつかの要素に関して傾向は見られた。加えた、正確に観察記録が行われてはいないが、変態前の大型個体において、長日条件と短日条件において変態する個体数に違いが見られた。ヤツメウナギに関しては最終年度に向けていくつかの光周期の影響が期待された。また、年度末にはさらに多数の個体を光周期を変えて飼育可能な装置が完成した。カナヘビに関しては予定していた実験は行えたが、予想していた結果ではなかった。またスナヤツメにおいては今後期待できる結果がまだ不確かな段階ではあるが得られている。電気生理に関しては報告する成果は得られていない。今年度の成果は組織学的な成果がある程度得られているので、おおむね順調に進展していると判断した。
光周期の室傍器官や生体への影響についてはカナヘビに関しては安定してステージの整った個体を多数入手する必要がある。そのためには研究室において繁殖可能の飼育条件を確立することが必要である。そこで、光周性に関する研究は安定して入手でき、これまでの研究成果から室傍器官や変態への影響の可能性が示唆されるスナヤツメを用いることとする。カナヘビは室傍器官の位置が実体顕微鏡レベルでも確認できることから室傍器官が眼外光受容器官であることを証明するための電気生理学的な実験に絞って研究を進める。スナヤツメは3~4年の幼生期の後変態し、成体となる。そこで、本年度末に導入した飼育装置を用いて、小型、中型、変態前の大型幼生を短日・長日条件で飼育し、室傍器官、GnIHニューロンや変態への影響を調べる。また、昨年度の研究成果から室傍器官を含む脳領域にはオプシンが発現していることが明らかとなっている。また、本年度の研究成果から小型幼生では脳の大きさに比べて室傍器官が他のステージよりも大きいことが示されている。そこで、カナヘビに加えて、スナヤツメ、特に小型幼生を用いて室傍器官からの細胞内記録にも取り組む。室傍器官-下垂体系が原索動物にも存在することを示すために、ナメクジウオの神経組織においてセロトニン陽性細胞、特に脳脊髄液接触ニューロンに類似した細胞群を探索する。セロトニン陽性細胞群の存在は研究報告があり、また脳脊髄液接触ニューロン様細胞の存在は予備実験から示唆されている。最終年度ではこれらの細胞がGnIHニューロンを経由して下垂体の原基と考えられているハチェック窩に神経連絡しているかどうかを調べる。ナメクジウオではGnIHの抗体に関する報告は未だないので、最終年度であることから、時間も限られているのでGnIHがRFアミドファミリーの属することから市販のRFアミド抗体を用いてこの研究を進める。
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