研究課題/領域番号 |
24570088
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
岡田 二郎 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 教授 (10284481)
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キーワード | アクティブ・センス / 空間認知 / 昆虫 / アンテナ / 触覚 / 体移動 |
研究概要 |
本研究は、昆虫のアンテナ能動触覚系とそれに密接に関わる体移動系の神経機構および両者の相互作用について、生理実験により解明することを目的とする。平成25年度に実施された研究内容を以下に記す。 アンテナ触覚系が機能的に保存されている単離中枢標本を用いて、アンテナ鞭節表面への接触刺激に対する応答を2種類のアンテナ運動神経(柄節外転神経および柄節内転神経)から細胞外記録した。アンテナ運動系を活性化させるピロカルピン(ムスカリン性アゴニスト)の灌流投与前および後において、鞭節へ各種方向(吻側、尾側、背側、腹側)から接触刺激を行い、両神経の応答を比較した。また刺激応答に関わる機械感覚器を特定するため、鞭節の刺激部位より近位側のアンテナ感覚神経の切断をおこない、その前後で刺激応答を比較した。 静止状態におけるアンテナ運動神経の刺激応答は、若干の個体差が見られたものの、刺激方向に応じて質的相違が認められた。すなわち鞭節に物体が接触するとアンテナ運動神経は、仮想的には物体からアンテナを離脱させる方向に動かす回避反応を引き起こした。ピロカルピン投与は、アンテナ運動神経にリズミックなバースト活動を惹起した。鞭節接触刺激に対するアンテナ運動神経の応答は、スパイク頻度が比較的高いアクティブ相と、スパイク頻度が比較的低い非アクティブ相で異なった。解析の結果、仮想上のアンテナ運動方向と対面するように物体が鞭節に接触すると回避反応が起こり、追随するように物体が接触すると、アンテナを物体に押し付ける抵抗反応が起こると推測された。アンテナ神経の切断実験では、その前後において、アンテナ運動神経の接触刺激応答に質的な変化は認められなかった。これは、今回観察された応答が鞭節表面の機械感覚子ではなく、アンテナ基部に存在する機械受容器により引き起こされることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成25年度計画では、初年度(平成24年度)の遅れを取り戻すべく、1)in vitro 実験系を用いた、アンテナ能動触覚に関連する背側葉ニューロン、およびアンテナ能動触覚系と歩行運動系の相互作用を表徴する脳ニューロンの検索、2)in vivo 実験系、すなわち拘束歩行器具(トレッドミル)上で実際に歩行行動遂行中の動物を用いて、アンテナ能動触覚および体移動に関連する脳ニューロンの調査に着手し、加えてアンテナ能動触覚系および歩行運動系の相互作用についても調べる予定であった。しかし平成25年度は、アンテナ運動神経のアンテナ接触応答に関して相応の成果が得られたものの、これに多大な時間を要し、その他の調査項目については着手できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たる平成26年度は、まず前年度までの未着手実験、すなわちアンテナ能動触覚に関連する背側葉ニューロン、およびアンテナ能動触覚系と歩行運動系の相互作用を表徴する脳ニューロンの検索に着手する。その後、in vivo 実験系を用いたアンテナ能動触覚系および歩行運動系の神経機構の解析に着手する。申請当時に計画した、行動―神経計測システムを用いた自由歩行実験については、残された時間の関係から実施を見送る可能性が高い。自由歩行実験から得られるであろう知見は、基本的にin vivo拘束歩行実験で得られるものと大きく変わらないと予想している。これは、以前代表者らがおこなったコオロギ自発歩行と関連する脳ニューロンの研究結果に基づくものである。 実施体制としては、平成25年度まで本研究に携わっていた博士前期課程大学院生が卒業したため、新たに学部4年生1名を当てるとともに、博士後期課程大学院生1名を実験およびデータ解析の補助者(パートタイマー)として加える。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に設備備品として購入を予定していた触覚刺激・記録装置(約30万円相当)は、部材を購入し自作することで極めて安価に完成したため、本支出分が大幅に減少した。旅費および人件費については、それぞれ学会での成果発表および英文校閲の機会が当初予定より少なかったため、各20万円程度の残余が生じた。 直接経費のおおよその使途と金額については以下のように計画している(カッコ内は主な内訳)。消耗品費90万円(試薬、実験器具、実験用部材)、旅費70万円(学会等における成果発表)、人件費・謝金50万円(パートタイマー雇用、英文校閲、研究スペース借用費)
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