研究課題
ヒドラなどの刺胞動物にみられる神経環(nerve ring)は、系統発生的に最も古い神経回路のひとつと考えられる。神経環の形成や機能に関わる遺伝子群を同定することにより、神経系の初期進化過程について手がかりを得ることができる。本研究では、既に神経環に発現することが明らかにできたsynapsinについて局在および機能解析を進めると共に、新たな神経環関連遺伝子の同定を進めている。1)トランスジェニック・ヒドラによるsynapsinの機能解析 synapsinが神経細胞に過剰発現するトランスジェニック・ヒドラを24年度に得たが、導入したsynapsin遺伝子の発現がモザイクであった。このため、25年度はより発現領域の大きな個体の選抜を行い、全身広範囲の神経細胞に導入遺伝子が発現する系統を得た。このトランスジェニック・ヒドラは摂食行動に異常があり、現在、原因を調べている。また、このトランスジェニック・ヒドラでは、元々synapsinを発現していないGLWamide陽性神経細胞に導入したsynapsin遺伝子が発現している。そこで、このsynapsinを異所性に発現しているGLWamide陽性神経細胞の形態異常を検討したが、大きな異常は検出できなかった。一方、ヒドラsynapsinの発現を阻害するRNAi型トランスジェニック・ヒドラについては、今年度、5系統樹立できた。2)ネマトステラsynapsinの局在・機能解析 ヒドラではsynapsinは神経環など一部の神経細胞だけに発現しているが、同様の発現様式が他の刺胞動物神経系でも認められるのかどうか明らかにするため、ネマトステラsynapsinに対する抗体を作成し、免疫染色による局在解析を行った。抗体価は上昇したが、特異的な染色像は残念ながら得られなかった。3)新たな神経環関連遺伝子の同定 今年度、in situハイブリダイゼーション法による神経環関連遺伝子約70クローンのスクリーニングを行い、新たに1種、有望な候補遺伝子が同定できた。
4: 遅れている
1)ヒドラsynapsinの局在様式の検討 synapsinを発現する頭部RFamide陽性シナプスとsynapsinを発現しないGLWamide陽性シナプスの構造を免疫電子顕微鏡法により比較する予定であった。この実験は、他大学の電子顕微鏡を借りて研究を行う必要があったが、今年度、研究棟の新設・研究室の移動、学科長・大学院新設など学内業務量増大のため、十分な時間がとれず実施できなかった。2)ネマトステラsynapsinの発現解析 ネマトステラsynapsinに対するペプチド抗体作成は行ったが、抗体が免疫染色に適さず、再度抗体作成を行う必要がある。3)トランスジェニック・ヒドラによるsynapsinの機能解析 異所性過剰発現型、機能阻害型のいずれもトランスジェニック系統が得られた。このうち、異所性過剰発現型については、摂食行動の異常がみられること、神経細胞の形態に大きな影響が見られないことなどが明らかとなったが、synapsin過剰発現がシナプス構造やシナプス可塑性に与える影響が評価できていない。一方、機能阻害型については今年度トランスジェニック系統が得られたので今後解析を進める必要がある。4)synapsin以外の神経環発現遺伝子の同定と機能解析 25年度は、実験補助者を活用し約70クローンの候補遺伝子のスクリーニングを行った。研究速度を上げるため、プロトコルの改良などの工夫を行ったが、予定したスクリーニング数には達しなかった。また、予想以上にホールマウントin situハイブリダイゼーションで陰性となるクローンが多く、TSA法など高感度検出系を用いる工夫などを行ったが明確な効果はみられなかった。
1)ヒドラsynapsinの局在様式の検討 これまで往復に3時間ほどかかる他大学の電子顕微鏡を利用してきたが、26年度に申請者の所属する学内に電子顕微鏡が導入され、研究のスピードアップが可能となる。2)ネマトステラsynapsinの発現解析 新たな領域を抗原として抗体作成を行う予定である。3)トランスジェニック・ヒドラによるsynapsinの機能解析 やや遅れてはいるが、特に大きな問題はないので、計画通りに研究を進めていく。4)synapsin以外の神経環発現遺伝子の同定と機能解析 ホールマウントin situハイブリダイゼーションによるスクリーニングで陰性となるクローンが多いことが問題となっているが、相同性検索で神経系に発現すると予想される候補遺伝子については、cDNA配列を確定後、予想アミノ酸配列を元にペプチド抗体を作成し、タンパク質レベルで発現解析を行うというアプローチを検討してみる。
研究棟の新設・研究室の移動、学科長・大学院申請業務が重なり、研究の進展が遅れたため。研究の進展を加速するため、主に実験補助者(神経環関連遺伝子のスクリーニングに従事)への謝金および実験補助者が行う実験の消耗品に充てる。また、本研究に重要な役割をする電子顕微鏡が申請者の大学に新たに設置されたため、電子顕微鏡関連の物品費に充当する。
すべて 2013 その他
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Journal of Neuropathology & Experimental Neurology
巻: 72 ページ: 1193-1202
10.1097/NEN.0000000000000017
http://www.fwu.ac.jp/teachersdatabase/detail/?masterid=74&gakkaid=203&gakubuid=20