研究課題/領域番号 |
24570092
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
加藤 徹 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80374198)
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研究分担者 |
DICK Matthew.H 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任教授 (80374205)
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キーワード | 分子系統 / ショウジョウバエ / Scaptomyza |
研究概要 |
Scaptomyza属のショウジョウバエは約6割の種がハワイ固有で、残りが世界中に広く分布するが、これらがハワイに起源を持ち、その一部が各大陸に分散したのか、あるいは大陸のどこかに起源を持ち、その一部がハワイで適応放散したのかが、ショウジョウバエ系統学における長年の疑問の一つである。本研究課題は、核およびミトコンドリアゲノムの両者を指標とした分子系統学的解析を行なうことで、ショウジョウバエ科におけるScaptomyza属の起源を推定するとともに、ハワイと大陸を介した、本属に特異的な適応放散の過程を明らかにしようと試みる。 今年度は、大陸産のScaptomyza属11種に対して、n(l)tid、cad-r、marf、およびgstdの4遺伝子について配列決定を行ない、そのうち3つの遺伝子については、11種中7~10種の個体で塩基配列を決定することができた。また、今年度になり、ハワイ産Scaptomyza属数十種における複数遺伝子の塩基配列が海外の研究者によって決定され、データベース上に公開された。そこで、本研究で得られた配列情報にこれらの配列情報を加えてアライメントし、最尤法により分子系統樹を再構築した。 その結果、得られた分子系統樹において、ハワイ産のScaptomyza属は単系統群を形成せず大きく2つの系統にわかれ、一方で、大陸産のScaptomyza属はハワイ産2系統のそれぞれに対して側系統的に枝分かれするという分岐関係を示した。これらの結果は、本属がハワイ起源ではなく、大陸のどこかに起源を持ち、その一部がハワイで適応放散したという大陸起源説を支持する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、大陸産のScaptomyza属ショウジョウバエを中心に、さらに4つの核遺伝子について塩基配列の決定を行なった。また、最近得られたハワイ産Scaptomyzaの塩基配列データに、本研究で得られた塩基配列を加えて構築した系統樹は、本属の起源がハワイではなく大陸である可能性が高いという、従来はマイナーとされてきた仮説がむしろ支持されるという興味深い見解が得られた。従って、現在までの達成度については、おおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度も、原則として平成25年度の作業を継続するが、下記の理由により、今後は核DNA領域の塩基配列決定と分子系統解析の作業に集中する。 1.試料収集およびDNA抽出:初年度からの継続した解析により、いくつかの試料については、PCR反応のための鋳型DNAが不足しつつある。そこで、このような試料については、再度野外採集を行なって試料個体を確保し、解析のために必要なDNAを改めて抽出する。 2.塩基配列決定:平成25年度に引き続き、新規プライマーを用いた塩基配列決定の作業に力を注ぐ。具体的には、ショウジョウバエゲノムのデータを利用して核DNA領域の塩基配列を決定するためのPCRプライマーを設計する。そして、設計できたものについては順次PCR反応を行なって塩基配列を決定し、アライメントを行なう。なお、これまでは核DNAのみならず、ミトコンドリアDNAの配列決定も継続的に行なってきたが、最近の他の研究によって、ミトコンドリアDNA領域については、かなりの配列情報がデータベース上で得られるようになった。従って、今後はとりわけ核DNA領域の塩基配列決定に集中する。 3.分子系統樹構築および分岐年代と祖先分布の推定:上記作業で得られた新たな塩基配列データに、アライメント可能な全ての配列データを併せて分子系統樹を構築し、Scaptomyza属の系統学的位置、およびScaptomyza属内における大陸産種とハワイ固有種間の系統関係を推定する。そして、系統樹の各枝が分岐した絶対年代をそれぞれ推定するとともに、各系統における祖先種の分布域を推定する。
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