研究概要 |
シダ類は維管束植物の体制進化を探る上での鍵を握る。シダ類は,種子植物とは起源の異なる葉を持ち,茎の形 成様式も種子植物とは全く異なる。シダ類のシュート形成遺伝子に関する情報を得るため,以下を行った。 (1)リチャードミズワラビにおけるClassIII Homeodomain-Leucine Zipper (HD-ZIPIII)およびAINTEGUMENTA (ANT) 遺伝子のin situ ハイブリダイゼーションによる発現解析:HD-ZIPIII遺伝子は葉や茎の維管束およびシュート頂の頂端細胞で発現した。これらの発現様式は,種子植物のHD-ZIPIII遺伝子の発現と共通するが,リチャードミズワラビでは葉の向軸側でHD-ZIPIII遺伝子が発現しない点で種子植物とは異なった。一方,リチャードミズワラビのANT遺伝子は葉原基の縁辺部や根端で強く発現し,細胞増殖を盛んに行う細胞で発現するという点において種子植物と共通性があった。しかし今年度得たデータでは,バックグラウンドの非特異的なシグナルが強く,固定時間やプローブの洗浄時間および洗浄液濃度など,実験条件のさらなる検討を行う必要があると思われた。 (2)非滅菌かつ液体培地でリチャードミズワラビを形質転換するための条件検討:効率よくアグロバクテリウムを用いた形質転換を行うために,非滅菌かつ液体培地でリチャードミズワラビを形質転換する条件検討を行った。その結果,アグロバクテリウムとの共培養を始める発生段階,共培養期間,形質転換個体を選抜する薬剤濃度,遺伝子導入に対する感受性を高めるために加えるアセトシリンゴン濃度,に関する最適値を得た。 (3)RNA-seqのためのサンプル調整:リチャードミズワラビの器官別サンプル(シュート頂,葉原基,成熟した若い栄養葉,胞子葉 ,根,若い配偶体)を採集し,total RNAの抽出を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は「同じ遺伝子が種子植物とシダ類の葉やシュート頂において異なる機能を持つ」ことを示し,両者の葉 の平行進化過程に迫ろうとする。今年度行ったin situハイブリダイゼーションによる発現解析の結果,リチャードミズワラビのHD-ZIPIII遺伝子とANT遺伝子はともにシュートで発現することが分かった。しかし,今年度得たデータはバックグラウンドが高いなど改善の余地がある。そこで,まず来年度中にそれら2遺伝子についてのin situハイブリダイゼーションによる発現解析を再び行う。同時に,これらについて,DNAi法によるノックダウン,遺伝子導入による過剰発現を行い,樹脂切片および走査型電子顕微鏡を用いた表現型の観察を行う。一方,種子植物のシュート頂で発現する遺伝子(ARP, KANADIなど)をリチャードミズワラビから新たに単離し,in situハイブリダイゼーションによる発現解析などを行っていく。 また,今年度調整したRNAサンプルにindex adaptorを付加し,方向特異的なライブラリーを作成する.18 index/レーンで1 レーンとして解析し,合計 1億8千万断片, 36Gbの生データを取得する。得られた配列からContigを取得し,“発現解析用の足場”を作り, 元のリードデータをContigにマッピングし、器官毎の発現量の違いを定量化する。そして,結果を種子植物茎頂 での遺伝子発現と比較し,シダ類のシュートで特異的に発現する遺伝子群,シダ類と種子植物のシュートで共通 して発現する遺伝子群に分類する。同様に,種子植物の葉原基で発現する遺伝子群と比較し,シダ類の葉原基特 異的に発現する遺伝子群,シダ類と種子植物の葉原基に共通して発現する遺伝子群を同定する。
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