研究課題/領域番号 |
24570099
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
時田 恵一郎 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (00263195)
|
キーワード | 国際研究者交流(英国,韓国,台湾,米国) / 国際情報交換(英国,韓国,台湾,中国,米国) |
研究概要 |
熱帯雨林や珊瑚礁などの,多種からなる大規模生態群集において普遍的に観測される種個体数分布 および種数面積関係などの「多様 性(種の豊富さ)のパターン」が生み出されるメカニズムの解明は,理学的にも環境保全などの応用上も重要な課題である.これに対 し,多種群集の数理モデルを構築し,近年発展してきた統計物理学や集団遺伝学における理論的手法を用いた解析を行い,多様性のパ ターンがさまざまな群集パラメータにどのように依存するかを調べることが本研究の目的である.当該年度においては,現実に観測さ れる多様性のパターンを示す多種群集の数理モデルとして種間相互作用が時間的に変動する適応的・進化的な群集モデルの振舞いを統 計力学的な方法を用いて理論的に調べ,種間相互作用の時間変動が確かに群集の安定性や多様性に寄与することを見出した.これは従来シミュレーションによって得られていた描像を厳密な数学的解析によって証明した最初の結果である.さらに,中立性を破る「格子ほぼ中立モデル」の振舞いをGPUを用いた超並列シミュレーションによって解析した結果,ある条件下では中立性を仮定しなくても完全な中立モデルと同じ種の豊富さのパターンや多様性を示すこと判明し,それらが種子や幼体が分散する距離に依存して変化することなどを新たに 見出した.これらの結果により,本研究課題の目的である多様性のパターンの創出機構として,種間相互作用の適応的・進化的変動や 種の分散距離の影響などを理論的に示すことができた.これらの結果について,1件の国際会議招待講演,2件の国内国際ワークショップ招待講演,1件の国際会議口頭発表,3件の国内学会口頭発表を行い,査読付き国際論文誌に1件論文を発表した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レプリケータ方程式系,中立モデルそれぞれについて予定以上の成果,予定通りには進んでいない研究がそれぞれあるが,全体の平均としては概ね予定したレベルの成果が上がっているものと考える.レプリケータ方程式系に関しては相互作用ネットワークのある特性が新たなタイプの個体数分布を導くことを発見した.中立モデルに関しては中立性の破れと個体数分布の特徴的な関係を発見することができた.これらの予定以上の成果についてはさらに論文発表や国際会議発表などを通じて国際的な情報発信を続ける.レプリケータ方程式系における非平衡領域の解析については予定通りの成果が上がっていないが,こ れは研究計画立案時にも予想された状況でもあり,次年度は研究計画にもある通り,スーパーコンピュータやGPUなどを用いた大規模 シミュレーション研究を進め,理論的な解析のための情報を収集する予定である.
|
今後の研究の推進方策 |
本年度得られた結果であるところの,相互作用が時間変動する多種群集モデルの統計力学的解析に関する論文を執筆・発表する.さら に,英国の共同研究者と集中的に議論する機会を作り,多種群集の数理モデルの統計力学的解析を進め,より現実的な適応的・進化的 な多種群集モデルを数学的に厳密に解析する手法を構築し,多様性のパターンと群集パラメータとの関係を明らかにする.「格子ほぼ 中立モデル」に関して得られた結果についても,本年度発表した論文の内容の他に,より生態学的にインパクトの高い仮説が得られた ので,それを検証し,論文を執筆・発表する.研究計画にも書いた通り,韓国釜山大学 Tae-Soo Chon 教授および Kyung He 大学の Y oung-Seuk Park 教授のグル ープおよびフランス Paul Sabatier 大学の Sovan Lek 教授のグループらと共同研究を進め、韓国および フランスの河川底生動物の群集データを用いて、上記の非平衡状態にあるランダム相互作用レプリケーター方程式系や「格子ほぼ中立 モデル」が予測する種個体数分布などの多様性のパターンの検証を進める.同時に,国際学会等でも積極的に情報発信を続ける.
|
次年度の研究費の使用計画 |
旅費が予定より多くなったが,人件費・謝金の支出がなかくその他も予定より支出が少なかったため少額の次年度使用額が生じた. 次年度は知識や技術の供与については共同研究などを通じて積極的に機会を覗うこととしたい.その他の費目については予定通りに進めることとする.
|