熱帯雨林や珊瑚礁などの,多種からなる大規模生態群集において普遍的に観測される種個体数分布および種数面積関係などの「多様性(種の豊富さ)のパターン」が生み出されるメカニズムの解明は,理学的にも環境保全などの応用上も重要な課題である。これに対し,多種群集の数理モデルを構築し,近年発達してきた統計物理学や集団遺伝学における理論的手法を用いた解析を行い,多様性のパターンがさまざまな群集パラメータにどのように依存するかを調べることが本研究の目的である。当該年度においては,現実に観測される多様性のパターンを示す多種群集の数理モデルとして,種間相互作用が疎(スパース)で,ひとつの種が係わる他の種の数が全体の種数に比べて無視できるほど少ない場合を解析した。その結果,これまで調べてきた種間相互作用が密の場合では非現実的なパラメータ領域でしか実現されなかった「全種共存解」が,種間相互作用が疎の場合には現実的なパラメータ領域で存在することを発見した。さらに,これまで理論的には予測されてこなかった,複数のピークをもつ種個体数分布が理論的に予測されることを見出した。この結果により,本研究課題の目的である多様性のパターンの創出機構として,種間相互作用のスパース性が決定的な役割を果たすことを理論的に示すことができた。これらの結果は査読付き国際論文誌に投稿済みであり,今年度中に掲載予定である。さらに,これらの結果に関連して,1件の国際シンポジウム招待講演,3件の国際会議口頭発表,5件の国内学会発表を行った。
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